17
美佐を家の近くの駅まで送った俺は、ひとり天王寺のホテルに向け電車に揺られていた。
目を閉じて、美佐のことを考える。
なるように、なる。
そして、なるようにしか、ならない。
いずれにしても、もう一度俺たちは始めるのだ。
先のことを考えても、仕方ないではないか。
俺の瞳の奥に、さっきまで一緒にいた美佐の笑顔が映る。
2月に、入試で東京に行った帰りに美佐に逢おう。
俺は、そう決めていた。
そして俺は、それまで今日見た美佐の姿を、ちゃんと心に焼き付けておこうと思った。
今度こそ、美佐を大切にしたい。
俺はそのとき確かに、そう思ったのだ。
広島に帰って、数日後。
入試の結果は、分厚い封筒で届いた。
予想通り、一般合格だった。
残念ながら、学費免除というワケにはいかなかったのだ。
入学の資格をキープするためには、入学金の一部を入金する必要があった。
逆をいえば、その金を入れないと入学の資格を失うということだ。
俺は、決断した。
数十万円を、ムダに使うわけにはいかない。
それに俺は、やはり東京に行きたい。
美佐がいるから大阪に行く、というわけにはいかないのだ。
なるように、なる。
しかし、流されては意味がないのだ。
俺は、夢を追う。
そして夢のひとつは、疑いなく美佐だ。
俺は、そう思えたのだ。
18
俺はまた、受験体制に入った。
といっても、塾や予備校に通うわけでもなく、ひとりで勉強していた。
今度の入試は、国語、英語、小論文、面接だ。
なぜか理系クラスにいた俺は、3年生になると授業中に受験勉強をしていた。
数学3の授業は、よくサボった。
そして、ひとりで映画を見に街に出た。
バンドは、軽音楽同好会を秋に引退した後も、当たり前のように続けていた。
俺がメインにやっていたバンドは、めんたいロックのコピーバンドだ。
3人のシンプルな構成で、俺はベースとボーカル担当だった。
何かの機会があれば、ライブをやる。
受験も大事だが、音楽も大事だった。
両立できるなら、やめる必要などない。
それが、俺の考え方だった。
俺はクラスのなかで、かなり浮いた存在だったようだ。
仲の良い友達は、バンドを一緒にやっている下山くらいだ。
しかし、だからといって下山ともあまりツルむこともなかった。
映画の勉強をしたい。
しかも東京で。
受験なのにバンドもやめない。
授業はサボる。
理系クラスなのに、国語が得意で文系科目で受験する。
そして、学級委員も引き受ける。
確かに俺は、変なやつだったかもしれない。
そして俺自身も、疎外感を感じていたのだ。
俺は、この学校、いやこの街に合わない人間なんだ、と。
漠然とだが、そんな空気を感じて毎日を過ごしていた。
俺は、そんな受験生だったのだ。