13
俺のシチズンクォーツアナログウォッチは、午後5時25分を示していた。
ただ、俺はいつも時計の針を5分進めているのだが。
ホテルのロビーのソファーに腰掛けながら、俺は心を落ち着かせようと思っていた。
もちろん自分は、落ち着いているつもりでいるのだが、実はかなりドキドキしていたのだ。
試験を終えた俺は、急いで天王寺のホテルに戻った。
電車に揺られながら、俺は美佐のことを考えていた。
美佐は、どんな3年を過ごしたのだろう?
付き合った男は、いたのだろうか?
俺は、そんなどうでも良いことを考えていた。
今さら、そんなことを考えても仕方ないのに…。
そして、ふと思った。
俺は、当然美佐が今でも俺のことを好きだと思っていた。
しかし、本当にそうなのだろうか?
3年の月日は、短くないのだ。
そして、俺たちはもう18歳になる。
中学生のあの頃とは、違うのだ。
しかし俺は、漠然とだが自信があったのかもしれない。
美佐は、俺のことがずっと好きなはずだ、と。
全く根拠などないが、俺はそう思っていた。
いや、本当は。
俺は、そう思いたかったのかもしれない。
そして、ついに美佐がホテルのロビーに姿を現した。
俺は、美佐の姿に思わず見とれてしまっていた。
14
待ち合わせの午後5時30分ちょうどに、美佐は現れた。
紺色のブレザーに、プリーツスカート。
手にはコートを持っていた。
美佐は、高校の制服姿だった。
今日は平日だし、この時間なら美佐が制服で現れたのも、当たり前のことだった。
しかし、俺は美佐の制服姿を、しばらくの間あっけに取られて見つめていたのだ。
3年ぶりに逢った美佐は、あの頃とは見違えていた。
かわいい…。
一瞬、胸がキュンとなる。
女子高生かよ、俺は!
美佐が俺を見つけて、手を振って駆け寄って来た。
「久しぶり…ひろ…。コンタクトにしたの?」と、美佐は言った。
「あぁ。久しぶり。そうだよね。去年、コンタクトにしたんだ」と、俺は言った。
俺は、ちょっと動揺していた。
俺たちは、ホテルを出て、駅近くの喫茶店で話をした。
3年の時間は、あっという間に埋まった。
俺は、そう感じていた。
そして、美佐もそう感じていたに違いない。
あっという間に、2時間が経っていた。
そろそろ、美佐を帰さなくてはならない時間だ。
俺は、この3年間ずっと気になっていたことを美佐に聞いた。
どうして俺に、手紙をくれなくなったのか…ということを。
美佐は、ちょっと困ったような顔をした。
そして、しばらくしてから、こう言った。