俺と美佐は、清く正しい、いわゆる中学生らしい付き合い方をしていた。


たまに学校から一緒に帰ったり、ほんのたまに映画を見に行ったり。


手もつながない、そんな付き合いだった。



夏が終わって、部活を引退した。


いよいよ高校受験に向けて、俺は初めての受験体制に入るのだ。



そんなとき。


美佐が、一緒に帰ろうと声をかけてきた。


美佐の様子が、なんだかおかしい。


鈍感な俺でも、さすがに気になった。


悪い予感がしていた。



学校からの帰り道、俺たちは公園に寄った。


ふたりで、ブランコに並んで座る。



長い間、俺たちは黙ったままブランコに乗っていた。


辺りは、薄暗くなっていた。


俺は、思い切って美佐にこう言った。


「何かあったの?」



美佐は、うつむいていた。


しかし、何かを決心したかのようにゆっくりと顔を上げ、こう言った。


「ひろゆきくん。わたし…転校することになっちゃった…。大阪に…」


美佐は、微笑んでいた。


無理をして、微笑んでいた。



俺は、それまで生きてきたなかで、最大のショックを受けていたのかもしれない。


「こんな時期に?何で?」


マヌケなことに、俺が言えたのは、そんな言葉だけだった。



俺は、美佐を家まで送った。


既に辺りは、かなり暗くなっていた。


美佐の家は、小高い山の中腹にあった。


学校からは、歩いて30分近くかかるだろう。


俺は、美佐の手を取った。


そして、手をつないで歩く。


いつもは、ふたりとも誰かに見られるのがイヤで、手をつながなかった。


しかし、今は…。


俺はそのとき、美佐の家がもっと遠くにあればいいのに、と思った。


もっと、もっと遠くに…。


そのとき、5時のサイレンが鳴った。


寂しく、鳴った。



美佐が大阪に行く日は、あっという間にやってきた。


こういう時間って、どうして早く過ぎるのだろう?



美佐たち家族は、宇品港からグリーンフェリーで大阪に行くそうだ。


出発は、明日の夜9時だ。


「見送りには来ないで。見送られるのは寂しいから…」と、美佐は言った。


今までに何度も、美佐は同じように寂しい思いをしてきたのだろう。


俺は、美佐と約束した。


「卒業したら、大阪に逢いに行くから」と。



その頃、俺は休みの度に自転車で小さな旅をしていた。


卒業したら、新しい自転車を組みあげて、一週間くらいの旅に出ようと考えていた。


そのときに、必ず美佐に逢いに行く。


それが俺たちの、心の支えのはずだった。