3
俺と美佐は、清く正しい、いわゆる中学生らしい付き合い方をしていた。
たまに学校から一緒に帰ったり、ほんのたまに映画を見に行ったり。
手もつながない、そんな付き合いだった。
夏が終わって、部活を引退した。
いよいよ高校受験に向けて、俺は初めての受験体制に入るのだ。
そんなとき。
美佐が、一緒に帰ろうと声をかけてきた。
美佐の様子が、なんだかおかしい。
鈍感な俺でも、さすがに気になった。
悪い予感がしていた。
学校からの帰り道、俺たちは公園に寄った。
ふたりで、ブランコに並んで座る。
長い間、俺たちは黙ったままブランコに乗っていた。
辺りは、薄暗くなっていた。
俺は、思い切って美佐にこう言った。
「何かあったの?」
美佐は、うつむいていた。
しかし、何かを決心したかのようにゆっくりと顔を上げ、こう言った。
「ひろゆきくん。わたし…転校することになっちゃった…。大阪に…」
美佐は、微笑んでいた。
無理をして、微笑んでいた。
俺は、それまで生きてきたなかで、最大のショックを受けていたのかもしれない。
「こんな時期に?何で?」
マヌケなことに、俺が言えたのは、そんな言葉だけだった。
4
俺は、美佐を家まで送った。
既に辺りは、かなり暗くなっていた。
美佐の家は、小高い山の中腹にあった。
学校からは、歩いて30分近くかかるだろう。
俺は、美佐の手を取った。
そして、手をつないで歩く。
いつもは、ふたりとも誰かに見られるのがイヤで、手をつながなかった。
しかし、今は…。
俺はそのとき、美佐の家がもっと遠くにあればいいのに、と思った。
もっと、もっと遠くに…。
そのとき、5時のサイレンが鳴った。
寂しく、鳴った。
美佐が大阪に行く日は、あっという間にやってきた。
こういう時間って、どうして早く過ぎるのだろう?
美佐たち家族は、宇品港からグリーンフェリーで大阪に行くそうだ。
出発は、明日の夜9時だ。
「見送りには来ないで。見送られるのは寂しいから…」と、美佐は言った。
今までに何度も、美佐は同じように寂しい思いをしてきたのだろう。
俺は、美佐と約束した。
「卒業したら、大阪に逢いに行くから」と。
その頃、俺は休みの度に自転車で小さな旅をしていた。
卒業したら、新しい自転車を組みあげて、一週間くらいの旅に出ようと考えていた。
そのときに、必ず美佐に逢いに行く。
それが俺たちの、心の支えのはずだった。