『恋愛小節 1983』        出雲 裕雪



寒い。


11月も末になると、広島でもかなり寒い。


それに深夜、受験勉強をしながらだと余計に寒く感じる。


電気毛布を腰から下に巻いていても、まだ寒かった。


しかも、眠いし。



1982年11月。


あと数日で、俺の大学入試が始まる。


受ける大学は2つ、3学科。


最初は、大阪の芸術大学だ。


現役生限定の学費免除がかかった試験を受ける。


しかし、免除されるのは、ほんの数人のようだ。


まぁ、その数人になるは無理だろうが、合格だけはしておきたい。


俺にとっては、まぁ滑り止めみたいなものなのだが。



とはいえ、本当は絶対の自信があるわけじゃない。


不安だけど、まぁなるようにしかならないだろう。



俺は勉強の手を休めて、引き出しから一通の手紙を取り出す。


差出人は、若原美佐。


俺が、中学生のときに付き合っていた女だ。


大阪で、美佐と3年ぶりに逢える。


それが、今の俺にはとても楽しみだった。



1979年の話だ。


美佐は、中3の秋に急に大阪に引っ越した。


高校受験を控えたそんな時期にムチャクチャな話だが、どうやらお父さんの急な異動だったらしい。


大企業も、けっこう大変だ。


美佐も、それまでに何度も転校したことがあるらしい。



引っ越しが多かったせいか、美佐は明るくて友達が多いタイプだった。


美佐と俺は、中学3年のときに同じクラスになった。


美佐は、バスケットボール部だった。


部員が多かったバスケ部で、美佐はレギュラーという訳ではなかったが、確かに目立っていた。


細い体と細い手足。


確かに気になる存在だった。



ちなみに俺は、テニス部キャプテンだった。


と言っても、軟式だが。


テニス部員は、男子だけで60人以上もいた。


1学年10クラスある学校だったし、テニスは人気あったし。


それはまぁ、良いとして。


幸い、美佐は俺より少し背が低かった。


それって俺にとってはけっこう、重要なことだった。



美佐は、どうやら俺の好きなタイプだったらしい。


最初は、俺はそんなに美佐を意識していなかった。


でも同じ班になって、お互いに少しずつ意識するようになっていった。



美佐は班ノートのなかで、俺に好意的なことを書いていた。


俺も、同じような感じで、美佐に好意的なことを書いた。


そんな感じで、俺たちはお互いのことが好きになっていったのかもしれない。



テニスの春季大会が終わった日、俺は突然美佐から呼び出された。


市民コートのそばにある、図書館の前で美佐と逢った。



俺は、美佐に言われる前にこう言った。


「俺と、付き合ってください」って。