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「陽子とは…友達なの…」と、由加は言った。


「陽子から、彼氏ができたって聞いたのは、あなたに初めて逢った後だった…」と、由加は寂しそうに呟いた。


確かに陽子と由加は、近いところで仕事をしている。


由加だって、サンプル配りのバイトくらいしたことがあるだろう。


歳も同じふたりが、友達だとしてもおかしくはない。


「あなたに誘われて、本当にうれしかった。でも、あなたは陽子の彼だし…」


なるほど…。


俺は、ジンジャーエールのグラスを傾けて、グラスのなかに踊るライムを見ていた。


じゃあ来るなよ…これでゲームセットだ。


これでは、由加を口説くわけにはいかないではないか。



俺は、優しく笑みを作りながら由加をなだめた。


ここでうまく収めておかないと、後々陽子とややこしくなるからだ。


由加とは、深刻にならないよう、いい関係を作るべく話を重ねる。


やれやれ…。


まぁこれで、陽子と揉めることもなさそうだ。


由加も、そんなにバカではないだろう。


由加を渋谷まで送って、俺はひとりポルシェを走らせる。


占いの結果は、吉か凶か?


いずれにしても俺は、沙樹子との腐れ縁を感じていた。


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そして12月23日がやってきた。


世間ではイブイブも、ちゃんとしたクリスマスという訳なのだろう。


街はすでに、クリスマス本番だった。


池袋の街を行き交うひとたちもみんな、なんとなく笑顔に見える。


日本中が浮かれている…。


そんな気がした。


しかし俺は、とてもそんな気分にはなれなかった。



沙樹子とは、午後7時半に待ち合わせをした。


俺は、ロレックスを見る。


針は、午後7時25分を指していた。


池袋西口の交番横で、俺は沙樹子を待つ。


由加との結果から、俺は沙樹子とのことを、もう一度考えてみることにしたのだ。


俺は、確実に由加を落とす自信があった。


しかし。


沙樹子と俺は、やはりただの縁ではないのかもしれない。


本当なら、もうとっくに終わっているはずだ。


しかし…。


そんなことを考えていた俺の目の前に、沙樹子が現れた。


「久しぶり、ひろ。逢いたかったよ」と、沙樹子は柔らかく微笑んだ。


この子は強い…。


俺は、沙樹子の凛とした美しさに心を奪われた。


そして俺は、沙樹子から離れられない訳が分かったような気がした。



俺たちは、あの夜に行った、イタリアンレストランへ向かう。


沙樹子がもう一度行きたいと言ったからだ。


ラッキーなことに、数日前だったが予約が取れたのだ。