106


クリスマスイブは、当然陽子と過ごすつもりだ。


世間では、高級なレストランを予約して、高級なホテルに泊まって…。


そんなクリスマスが、当たり前だった。


しかし俺と陽子は、ふたりで陽子の部屋で過ごすクリスマスを選んだ。


俺と陽子の想いは、同じだったのだ。


お互いの飾らない、そんな気持ちが、お互いに嬉しかった。


幸せだった。


俺は、その前日に沙樹子と話を付けるのだ。


沙樹子とは、もうちゃんと別れなければならない。


これまでは、中途半端でちゃんとした結論が出せなかったのだ。


しかし俺は、沙樹子が言った、愛してる、という言葉に引っかかっていた。


その言葉が、俺の心を締め付ける。


考えてみれば、沙樹子には何の罪もない。


俺の栞への想いに、沙樹子は失望したのだ。


そして沙樹子は、距離を置こうと言った。


そして沙樹子は今、間違いなく俺に戻ってこようとしている。


俺の気持ちは、複雑だった。


沙樹子に恨みがある訳ではない。


そして、俺を愛してくれるのならば…。



いや、やはりそういう訳にはいかない。


俺は、陽子の声を聞くために受話器を取り上げた。


それは、自分の決意を固めるためにも、必要なことだったのだ。


107


クリスマスが、間近に迫っていた。


その夜、俺は行きがかり上とはいえ、由加とデートするために青山にいた。


ロレックスの針は、午後7時24分を指していた。


寒い。


それは、気温の低さだけが理由ではない。


俺は今日のデートの結果で、沙樹子とのことを決めることにしたのだ。


あまり気乗りがしない。


心も寒かった。


もし由加が落ちれば、沙樹子とキッパリ別れる。


もし落ちなければ…。


俺は、沙樹子ともう一度やり直すことを考えてみようと思った。


なぜか、そんなバカで無茶なことをしようと思っていたのだ。


「おはようございます!って、こんばんは!ですよね」と、後ろから声をかけられた。


由加だ。


ミニスカートに、白いファーのコートを羽織って、柔らかく微笑んでいる。


由加は、青山の街なかでも確かに目立っていた。


あぁ、やっぱりいい女なんだ…と俺は、改めて気付く。


俺は、由加をポルシェに乗せて、練馬に向けて走らせる。


由加がステーキを食べたい、と言うからだ。


そのステーキハウスは気取った店ではないが、雰囲気が良くて、何より旨い。


その店に向かう途中ずっと、由加は運転する俺の横顔を、じっと見つめていた。