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その日。
俺は、バラエティー番組の収録のため、表参道にいた。
原宿アパートの前は、相変わらず人通りが多い。
俺は、車道側の植え込みの鉄製の柵に腰掛けて、ボーっとひとの流れを見ていた。
とりあえずの待ちだった。
撮影が巻いたため、仕込みのエキストラの入りまで時間ができたのだ。
寒い。
手を添えていたSONYのENGキャメラBVW―300のキャメラグリップも、冷たく凍えていた。
俺は、アヴィレックスB3フライトジャケットの襟を立てる。
ムートンが、首に優しい。
マルボロに火を点けて、またひとの流れに目をやりながら、陽子のことを考える。
陽子は、まさに俺が思っていた理想的な女だ。
追い求めていたはずの女を、やっと手に入れた。
しかし、なぜか気分が乗らないのだ。
なぜか、陽子を抱く気にならないのだ。
刺激が欲しい、という訳ではなかった。
ただ俺は、まだまだ落ち着きたくないのかもしれない。
陽子を抱けば、陽子にもっとハマってしまう。
そのことが怖かったのかも知れない。
そんなことを考えていた俺の隣に、その女はいつの間にか座っていた。
チラッと、その女を見る。
その瞬間、俺と彼女の目が合った。
運命的な出逢いは、そのときにはっきりと分かるものだ。
それが、俺と由加との出逢いだった。
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「おはようございます!」と、その女の子は声をかけてきた。
歳は19かハタチ、かな?
顔は、まぁまぁだ。
作りがはっきりしていて、派手めの顔だ。
スタイルは良さそう…だな。
俺は、一瞬にしてそんなことを思った。
「どうも」と俺は、あえてそっけなく応えた。
それには訳がある。
俺のポリシーとして、アナウンサーやタレント、そしてスタッフとは深く付き合わない。
つまり逆に言えば、俺はその女の子を、そのとき深く意識したということだ。
「千葉由加と言います。今日はよろしくお願いします」と、その子は明るく言った。
モデルなんだ…。と、俺は気付く。
なるほどスタイルが良いはずだ。
「…寒いよね。そんなカッコじゃあ。大丈夫かい?」と、俺は言った。
良くあることだが、由加はこの真冬に、春の衣装を身につけていた。
いくらコートを羽織っていても、どう見ても寒そうだった。
由加は、決して俺の好みのタイプではない。
しかし、なぜか俺は由加のことが気になっていたのだ。
「ねぇ、血液型って何型?」と、俺は撮影の合間に聞いた。
「カメラさんこそ何型なの?教えてください」と、由加は微笑んだ。
俺は、そのときなぜか、強烈にこの女と寝たいと思ったのだ。