100
俺は、このまま沙樹子を忘れることに決めた。
正直に言えば、もう既に沙樹子に醒めていたのだ。
俺は、俺に興味がある女しか愛せない。
俺を強烈に愛してくれる女しか、愛せないのだ。
そのことに、改めて気付いていた。
愛されただけ、愛する。
それが、俺の愛し方だ。
もし俺をいくら想っていたとしても、俺が分からない愛し方ではダメなのだ。
果たして陽子は、そんな愛し方をしてくれるだろうか…?
そんなことを考えながら、俺は一度自分の部屋に戻る。
冷たいままの水で顔を洗う。
服を着替える。
電気シェーバーで、ひげを剃る。
そして俺の足は、陽子の部屋へと向かった。
陽子には、家を出る前に電話を入れておいた。
陽子は、声を弾ませて、こう言った。
「うん。絶対に来てくれるって分かってたよ。信じてたもん♪」
かわいい。
たまらないほど、陽子がかわいかった。
陽子は、カレーを作ってくれているらしい。
いかにも!という展開だが、俺は嬉しかった。
陽子の部屋に着く。
俺は、ひとつ深呼吸をして呼鈴を押した。
この扉の向こうには、新しい世界がある。
俺はそのとき、確かにそう感じていた。
101
陽子との日々は、穏やかに進んでいく。
あの日から、二週間が経った。
俺は、時間があれば陽子の部屋で過ごすようになっていた。
しかし、俺はまだ、陽子を抱いてはいない。
キスをしたり、抱きしめて一緒に眠ったりはしているが、陽子を抱く気にならなかったのだ。
なぜだかは、分からない。
俺は、今までの女と陽子を、同じにはしたくなかったのかもしれない。
池袋の街は、クリスマス一色だ。
いつの間にか、そんな季節になっていた。
クリスマスソングが、街に溢れている。
俺は、クリスマスソングが嫌いだ。
ムダにひとの気持ちをソワソワさせるからだ。
そして今の俺の気持ちも、そんな感じだった。
陽子の愛に、何の不満もない。
俺への気持ちは、痛いほど分かる。
陽子の言葉、態度、行動。
そのすべてが、俺にストレートに向かっていた。
俺は、これほどまでに落ち着いた気持ちで女と向き合うことが出来たのは、実は初めてかもしれなかった。
しかし。
俺は、なぜかそんな陽子との関係を素直に喜べなかったのだ。
何かが足りないのだろうか…?
1990年も、間もなく終わろうとしていた。
そんな時、俺はあの女と出逢ってしまったのだ。