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陽子の部屋は、女の子らしい雰囲気が好ましかった。


1Kのこじんまりした部屋だが、キレイに片付けられている。


シスター系の雰囲気だが、陽子はディズニーも好きなようだ。


ベッドにいくつかのぬいぐるみが置いてあるのが、微笑ましい。


俺は、ちょっと安心していた。


何をもって普通というのかは、良く分からない。


しかし、俺にとって陽子は、普通の女の子だった。


そしてそれが、今の俺にとっては嬉しかった。



初めて女の部屋に入るときは、いつも落ち着かない。


俺は、フローリングに敷かれたラグの上に、ひざを抱えて座る。


陽子は、温かいフレーバーティーを入れてくれた。


ふたりで一緒に、温かい紅茶を飲む。


そして俺たちは、朝まで話をして過ごした。


手をつないで、肩を抱いて。


そして、ひとつの毛布にくるまって。


見つめあって、キスをする。


それだけで、とても幸せだったのだ。



朝7時。


俺は、仕事に行くために陽子の部屋を出る。


「今日は何時に帰ってくる?」と、陽子がいたずらっぽく笑って言う。


俺は、苦笑いしながら、連絡するね!と返す。



その日、早めに仕事が終わった俺は、沙樹子に逢うために、沙樹子が働く病院に向かった。


そう。


沙樹子との結論を出すために。


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沙樹子と逢わなくなって、どのくらいの時間が経つのだろうか?


俺は、そんなことさえ、すぐには分からなくなっていた。


浜名湖への旅以来、か…。



B型の女は、やはり理解不能だ。


もしも、もう俺たちが終わりだと分かっていたとしても、ちゃんと話し合って結論を出したいと俺は考える。


しかし、B型の女はそうではないらしい。


沙樹子とは、何度か連絡を取ろうとしたが、結局あれから話も出来ていない。


好意的に考えれば、俺と離れるために、あえて俺との接触を絶ったのだろう。


しかし、それは俺にとっては無責任に逃げているとしか思えないのだ。


沙樹のときも、まさに同じではなかったのか?


俺は、同じ過ちを何度も繰り返しているバカだ。


歳を取っても、状況が変わっても学習しないバカだ。


しかし、それでもB型の女に惹かれてしまう…。


俺は、そんな自分に片を付けたかったのかもしれない。



俺は、沙樹子に病院の内線電話で連絡を取る。


しかし沙樹子は、まだ逢いたくないと言った。


頑なに、そう言った。


「また連絡するから…」


それが、沙樹子が言った、電話での最後の言葉だった。