94
自分の部屋に帰った俺は、そのままソファーに倒れこんだ。
目を閉じる。
陽子の笑顔が見えた。
俺は、沙樹子のことを考えようとした。
沙樹子とも、はっきりしなければならない。
しかし沙樹子の顔も声も、今はもう、ちゃんと思い出せないような気がした。
俺は、自分が情けなかった。
沙樹子を、幸せにするつもりだったのに…。
俺は、何も考えていないつもりだったが、実はいろいろ考え込んでしまう性格らしい。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
今日は休みだ。
まずは眠ろう…。
そして俺は、いつの間にか夢を見ていた。
栞と手をつないで歩く。
そこは、菜の花畑だ。
菜の花の黄色が、目にまぶしい。
俺は、栞を後ろから抱きしめる。
しかし、栞は笑いながら俺の手をすり抜けて行く。
行かないでくれ!
俺は、そう叫ぼうとするが声が出ない…。
俺は、いやな汗をかいていた。
目を開けて、壁に掛かった時計を見る。
もう午後3時半か…。
俺は、やはり栞のことが忘れられないのだ。
そして、陽子が気になったのも、本当はそのせいだろう。
しかし、そうだとしたらまたロクなことにはならない。
俺は、マルボロをくわえながら決意していた。
自然な感情で陽子に向き合おう、と。
O型の陽子は、俺を変えてくれるかもしれない…。
俺は、今すぐに陽子に逢いたくなっていた。
95
俺は、急いでシャワーを浴びる。
確か陽子は今日、東武デパートでバイトしているはずだ。
どこにいるかは分からない。
でも…。
俺は、自分の感情に正直に動こうと思った。
いますぐに、陽子に逢いたい。
俺は、西武線で池袋に向かった。
東武デパートの最上階から、ゆっくりと陽子を捜して歩く。
なぜだか、不安はなかった。
今日、必ず陽子に逢える。
俺は、そう確信していた。
そして、その予感はすぐに当たった。
「ひろさん!」
俺は後ろから、いきなりそう声を掛けられた。
振り返った先には、陽子がいた。
白いスタッフジャンパーに、白いミニスカートがまぶしい。
先は、どう転ぶか分からない。
でも…。
出逢ってしまったのだから、仕方ないのだ。
俺は、思った。
この女に賭けてみよう、と。
それから1時間20分後。
俺と陽子は、池袋西口にある、地鶏を食べさせる居酒屋にいた。
俺たちは、運良く二人用の個室に入ることができた。
ゆっくりと、お互いのことを話す。
いくら時間があっても、今の俺たちには足らないだろう。
そんな感じで、楽しい時間が過ぎていった。
ロレックスを見る。
針は、午後10時27分を指している。
俺は、陽子の手を優しく包むように握ってこう言った。
「今夜、ずっと一緒にいないか?」