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恭子とは、あの夜以来逢っていない。


俺は、あの夜から女を愛することをやめたのだ。


しかし、その反動からか、激しく女を欲っするようになっていた。


優しくアプローチして、冷たく突き放す。


俺に関わった女は、俺のことをこう呼んだ。


そう。


優しいSと。


瞳と出逢ったのは、ちょうどその頃のことだ。


あるタレントの誕生パーティーで、ひときわ目立つ女がいた。


それが、瞳だった。


俺と一緒にパーティーに顔を出していた後輩の亮が、偶然瞳と知り合いだった。


そして俺と瞳は、言葉を交わすこととなったのだ。


瞳のドレスはセクシーだった。


体の細いラインに不釣り合いなほどのバスト。


足もピンのように細い。


聞けば、瞳はレースクイーンをしているという。


なるほど、ね。


俺は、瞳をごく普通の女として扱った。


こういう女は、普段からチヤホヤされている。


瞳は、俺の態度が気に入らないようだった。


まぁ、それならそれで仕方ない。


女に媚びるのは、性に合わない。


パーティーも終わりに近づいていた。


そのとき、瞳が声をかけてきた。


俺の心のなかの悪魔が、ニヤリと笑った。


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瞳が俺を呼び止めて、こう言った。


「何だか気に入らないんだけど、あなた。ねぇ、このあと空いてる?」


俺は、クールにこう答えた。


「俺も気に入らないんだよね、君…。よく話し合わなきゃね。俺の車乗ってく?」


それから20分後。


瞳は、ポルシェの黒いレザーレカロのシートに腰を沈めていた。


コートを纏った体も、セクシーだ。


俺は、西麻布から横浜へポルシェを走らせる。


瞳が、海が見たい、と言うからだ。


車に乗ってからの瞳は、なぜか無口だった。


俺は、チラッと横目で瞳の様子を確認する。


その横顔が、寂しそうに見えた。


首都高横羽線に入った頃、瞳が小さくつぶやいた。


「今夜は、独りでいたくなかったの…」


俺は、ベイブリッジがよく見える埠頭にポルシェを停めた。


「キレイだね…」と瞳がつぶやいた。


その姿は、まるで少女のように見えた。


俺は瞳の横顔を、今度はしっかりと見つめていた。


「何かあったんだろ?」と、俺は優しく瞳に問いかけた。


本当は、理由なんてどうでもいい。


俺には、関係がない。


瞳が落ちればいい。


ただそれだけだ。


俺は、瞳の手を優しく握りながら、瞳の目をしっかりと見つめる。


こんなときは、言葉は要らないのだ…。