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恭子の突然の告白は、俺の心を激しく傷つけた。
なぜ?
どうして?
俺には恭子の気持ちが、まったく理解できなかった。
俺は、そんな男に負けてしまったのか?
俺は、確かに自分がひどい男だったと自覚していた。
しかし、恭子と暮らした生活すべてを、ないがしろにしてきたわけではない。
俺は、恭子をずっと大切にしていた。
それでも俺は、恭子をずっと守っていたはずなのだ。
俺はあの頃、恭子を確かに愛していたことに、いまさらながら気付いたのだ。
俺の心のなかの何かが、壊れていく。
…だから何だというのだ。
恭子は、俺を裏切ったのだ。
俺は、伏せ目がちだった目を真っ直ぐに恭子に向ける。
そして、さわやかに微笑みながら恭子を熱く見つめる。
「分かるよ、その気持ち。俺にだって分かるさ…」
恭子の反応を、見る。
俺の伝えたい気持ちは、確実に届いているはずだ。
俺は、そう確信した。
俺は、ひとつ大きく息をつく。
「今日はありがとう。さようなら…」
「えっ?」
呆気に取られる恭子を置いて、伝票を取り、席を立つ。
俺は、恭子をもう一度見つめて、唇だけで言葉を伝える。
愛してる、と。
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恭子を店に残したまま、恵比寿の街に飛び出す。
俺は、独りになりたかった。
そして、頭を冷やしたかったのだ。
なんとか無事に演じ切ったつもりだった。
しかし、心のなかはぐちゃぐちゃだった。
恭子への想い…。
嫉妬、未練、愛情、執着、怒り、憤り、あきらめ…。
そんな想いと、自分の男としての情けなさが交錯し、心を乱す。
降り出した雨が、俺の頭を冷やしてくれる。
俺は空を見上げ、目を見開く。
そして、拳を握り締める。
目や口に雨粒が容赦なく入ってきた。
しかし、それが今は心地よく感じられる。
俺は、握りしめた拳に新たな決意を誓う。
すべてを受け入れ、すべてを計算し、感情に流されずに目的を遂行する。
俺の目は、そのとき、知らず知らずのうちに細められていたことだろう。
アパートに帰ると案の定、留守電にメッセージが入っていた。
俺は、それを無視して熱いシャワーを浴びる。
冷えきって固まった体が、急激にほぐれていく。
シャワーを終えた俺は、ドクターペッパーを飲みながら考える。
このあと、恭子をどうしてやろうか?
すでに目的の半分は、成功している。
考えてみれば、あまりにも簡単なゲームなのだ。
まぁ、最後に一度くらい寝ておくか…。
俺はニヤリと笑いながら、留守電の再生ボタンを押した。