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栞は電話に出ない。
何回かけても同じだ。
俺は、栞からの手紙をもう一度読み返してみる。
お兄ちゃん、ごめんなさい。
栞は、もうダメかもしれません。
あれから、何も食べられなくなってしまいました。
食べようとしても、戻してしまって。
でもね、これはわたし自身の問題で、わたし自身が解決しなければならないことだと分かっています。
先輩もそうだし、お兄ちゃんもそう。
結局、栞を愛してはくれなかったんだから…。
でもね、お兄ちゃん、逢いたいよ…。
栞は、壊れかけている。
そしてそれは、俺のせいだ。
俺と栞の気持ちは、同じ方向を向いていたのに…。
そして俺は、決意したのだ。
栞を救いたい。
栞と連絡が取れたのは、次の日のことだった。
栞は、明らかに元気がないが、それでも俺からの電話を喜んでくれる。
そして、俺たちはもう一度逢うことを約束した。
次の土曜日に、新宿西口交番前に午後1時。
電話の最後に、栞はこう言った。
「お兄ちゃん…どこか遠くへ連れて行って…」
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その日が来るのが、待ち遠しかった。
本当に。
久しぶりに栞に逢える。
俺は、その土曜日、いつもより早めに目を覚ました。
季節の変化は、シャワーの設定温度で感じられる。
41℃。
いつの間にか、秋も深まっていた。
俺は、リーバイス502のジーンズに、薄手のシングルライダースの革ジャケットを合わせる。
もちろん色は、ブラックだ。
ロレックスデイトジャストの針は、午前10時28分を示していた。
今日は、長いドライブになるかもしれない。
俺は、今日はワークブーツではなく、軽いエコーのハーフブーツを履く。
ヒールの巻き上がりが、いい感じだ。
駐車場までは、歩いて2分の距離だ。
俺は、歩きながら栞のことを考える。
栞の体調が、本当に心配だった。
俺と電話で話すようになってからは、多少食事もとれるようになったというが…。
本当に、大丈夫なのだろうか?
とにかく、すべては栞に逢ってからの話だ。
俺の気持ちを、今度こそちゃんと伝えよう。
いままで封印してきた、栞への気持ちを。
午後0時26分。
俺は、新宿西口の地下駐車場にポルシェを止めた。
今日、俺は栞のすべてを受け止めるつもりだ。
俺は、そう決意して待ち合わせ場所へと向かった。