62


その夜、俺と沙樹子はいつもより激しく愛し合った。


お互いに感じていた不安感が、ふたりをそうさせたのかもしれない。


しかし、やはりもう何かが違ってしまっていた。



東京へ向かう帰り道。


ポルシェは、また機嫌が悪くなっていた。


「わたしに妬きもち妬いたのかな?」と、沙樹子は力なく笑った。


沙樹子を、町田駅まで送る。


沙樹子がそう望んだからだ。


「わたし…ちょっと忙しくなるから、当分逢えないかもしれないの…。ゴメン」


車を降りるとき、最後に沙樹子は、そう言った。


そして沙樹子の姿は、人ごみに消えていった。


独りになった俺は、ゆっくりとポルシェを走らせながら考える。


沙樹子の言葉を聞いても、さほどショックに感じないことが、俺にはショックだった。


沙樹子の俺への気持ちは、冷めてしまったのだ。


俺は、そう思った。


沙樹子は、自ら舞台を降りたのだ。


相手が冷めれば、俺も冷めてしまう。


そういうことだ。



俺はいつも、強烈に俺を愛してくれる女を欲しているのかもしれない。


いまさらながら、そんなことに気付いていた。


俺の気持ちは、急速に栞に向かっていた。


もう手遅れかもしれないことは、そのとき俺自身も分かっていたのかもしれないのに…。


63


俺は、ぼんやりした毎日を送っていた。


栞に連絡しようと思ったが、勇気がなかった。


いまさら栞に、何て言えばいいのだろう?


そう考えると、電話できなかったのだ。


それに、沙樹子との関係がおかしくなったことは、もちろんどうでもいいことではない。


沙樹子を完全に失うことは、恐怖だった。


まだ、完全に終わった訳ではない…。


やはり、沙樹子にも未練があるのだ。


そんな中途半端な気持ちのまま、時間だけが過ぎていった。



そんなある日のことだった。


俺に届いた、一通の手紙…。


差出人は、加藤栞。


栞だった。


栞からの手紙…。


今ごろ、どうして?


俺の気持ちは、揺れていた。


この手紙が、何かのきっかけになりそうな気がした。


シルバーのペーパーナイフを使って、急いで開封する。


俺の手は、震えていた。



栞からの手紙は、驚くべき内容だった。


俺は、その内容に言葉を失う。



俺は、受話器を取り上げて、栞に電話をかけた。


栞…、出てくれ!