46


普段は狭苦しいロフトが、いまは落ち着いた暖かい場所に感じられる。


俺の腕のなかで、裸ですぅすぅと寝息を立てている沙樹子が、愛おしい。


俺は、沙樹子の髪をなでる。


もう、離したくない。


俺は、沙樹子に優しく触れるようなキスをする。


俺はそのとき、こんな時間が永遠に続くことを願った。


ずっと…。



次の朝、俺たちは一緒に家を出た。


池袋駅で俺の部屋の合い鍵を作り、沙樹子に渡す。



「合い鍵もらうのって憧れだったんだ。ありがとう!」と、沙樹子がはしゃいだ。



それからは、穏やかな日々が続いた。


相変わらず俺も沙樹子も、バタバタした毎日を送っていた。


なかなか逢えないし、毎日電話で話せるわけでもない。


しかし、俺は穏やかな日々を送っていたのだ。


沙樹子とは、離れていても心は繋がっている。


そう信じることができたからだ。



そんなある日のことだった。


栞からかかった一本の電話…。


それが、その後続く俺の苦しみの始まりになるとは、そのときは思いもしなかった。


47


「あっ、お兄ちゃん!栞です。やっとつながった!」


栞は、うれしそうにそう言った。


「あぁ。ごめんね。どうした?」


「どうした、って。また逢ってくれるって言ったじゃん」



それから栞は、楽しそうに、毎日起こるちょっとした出来事を話した。


俺には、それがとても新鮮だった。



毎日起こる、薄汚れた出来事。


その現場に行き、それを伝える。


それが、俺の仕事だった。


俺は、そんな毎日に疲れていたのかもしれない。



栞の話すことは、きれいな出来事ばかりだった。


栞が感じる楽しいこと、悲しいことは、栞がきれいな心を持つからこそだ、と感じられた。



俺は、そんな栞にもう一度逢いたくなっていた。


「まぁ、栞は妹みたいなもんだしな。じゃあ、いつ逢おうか?」と、俺は言った。


「じゃあ、今度の水曜日は?夜の8時にどこかで」


俺と栞は、次の水曜日に新宿で逢うことを約束した。