44


俺は駅の周りを、沙樹子を捜して走る。


いない…。


どこにもいない。


急いで北口に戻ってみたが、やはり沙樹子はいなかった。


どう見ても、沙樹子は駅にはいないようだ。


公衆電話から、留守電をチェックする。


メッセージは、なかった…。


沙樹子は、俺の住所を知っている。


しかし、いきなり来るには分かりにくい場所だ。


でも…。


もしかしたら。


俺は、いったん家に帰ってみることにした。


沙樹子を捜しながら、走る。


家に着くと、アパートの入口に誰かが立っていた。


…沙樹子だ。


不安げだった沙樹子の表情が、輝く。


「俺と逢えなかったら…どうするつもりだったんだよ!」


俺は、思わず大声でそう言っていた。


「…ごめんなさい…ひろに逢いたくて…」と、沙樹子は小さな声で言った。


俺は、沙樹子に駆け寄って、思いきり抱きしめる。


そして俺は、いま確かに感じていた。


そう。


本気で沙樹子のことを、愛し始めていることを。


45


俺と沙樹子は、手をつないで黒い革張りのカウチソファーに、並んで座っていた。


言葉は、いらない。


いまこそ、そんな状況だったに違いない。


しかし俺は、いまの正直な気持ちを沙樹子に伝えたかった。


「俺は、サッコのことが本当に大切なんだ。いつも考えてるんだよ。サッコがいま何してるんだろうって」


沙樹子は、涙を浮かべながら、じっと俺を見つめている。


「俺のことをどう思ってるんだろう、とか、情けないけどいつも不安なんだ」


沙樹子が、ゆっくりと口を開く。


「わたしもそうだよ。いつも不安だよ。ひろが何考えてるのか、全然分からないし…」


そうか…。


俺は、沙樹子のことを信じ切れていなかったのだ。


そしてそれは、沙樹子も同じだったに違いない。


しかし、それは仕方ないことだ。


俺たちは、まだ始まったばかりなのだから。


お互いを理解すること、いや、お互いを理解しようとすることが、いま必要なのだ。


そのための努力は、これからすればいい。


そうし続けることが、俺たちふたりにとって、一番大切なことだと本当に思えた。


俺は、思い切ってこう言った。


「俺が沙樹子を抱きたいのは、沙樹子ともっと愛し合いたいからなんだよ。沙樹子を感じたい。もっと知りたい。だから…」


沙樹子は、照れたように微笑んだ。


そして、覚悟を決めたようにこう言った。


「しょうがない子ね…。わたしシャワー浴びたい。バスタオル貸して」


俺は、その言葉に体が震えていた。