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俺と栞は、明け方まで語り合った。
「お兄ちゃん、電話番号教えてよ。栞のはね、えーと…」
そして俺たちは、連絡先を交換して別れた。
また東京で…。
俺と栞は、そう約束した。
とはいえ俺は、栞とのことは、旅先でのちょっとしたハプニングくらいにしか考えていなかった。
まぁ、よくある話だ。
東京に戻った俺は、仕事を片付けて、家に戻った。
留守電のランプが点滅している。
昨日の夜までは、出先からメッセージを確認していたので、それ以降に入ったものだ。
俺は、メッセージを再生する。
「…あっ。加藤栞です。昨日は、ありがとうございました。楽しかったです」
緊張しているのか、ずいぶん硬い感じだ。
でも、俺にはそれが微笑ましかった。
「えーっと、来週あたりまた逢ってもらえないでしょうか?…また連絡します。バイバイ!」
俺は、栞がこんなにすぐに連絡をくれるとは思っていなかったので、正直驚いていた。
また逢ってやるか…。
次のメッセージが始まる。
沙樹子だ。
「ひろ…。逢いたいの…ひろの家に行ってもいい?」
43
沙樹子からのメッセージは、午後10時45分。
今から30分ほど前のものだ。
「いま…ひろの家の近くまで来てるの。駅で…待ってるから…」
俺は、家を飛び出した。
江古田の街を、走る。
もしかしたら駅ですれ違っていたかもしれない、微妙なタイミングだ。
俺は、練馬病院の横の道を抜けて、日芸の正門前に出る。
そしてそのまま、まっすぐ行って江古田駅北口に着く。
駅の狭い階段を駆け上がって、辺りを見回す。
いない…。
俺は、反対側の階段を駆け下りる。
いない…。
俺は、南口に向かう。
仕事用のG-SHOCK DW5600のライトを点灯させ、時間を確認する。
豆球の黄色いライトでは見にくい。
午後11時27分…。
すでに沙樹子は、自分の家には帰れない時間だ。
俺は、焦っていた。
南口に着く。
辺りを探したが、沙樹子はいなかった。
沙樹子…。
どこにいるんだ…。
俺はもう一度、駅の周辺を捜すために駆け出していた。