38
それからの俺は、重い気分を抱えて過ごしていた。
沙樹子からの電話は、まだない。
イライラが募る。
俺は、明日から大阪への一週間の出張が入っていた。
このまま大阪に行くわけにはいかない。
俺は仕事が終わるとすぐに、公衆電話から沙樹子の家に電話をした。
やはり、沙樹子はいなかった。
電話に出た妹さんに、俺のスケジュールを沙樹子に伝えてくれるように頼む。
次の日、俺は大阪にいた。
バラエティー番組のロケだ。
沙樹子とは、大阪から、やっと電話で話すことができた。
とにかく、もう一度逢う約束だけは取り付けた。
逢ってちゃんと、気持ちを伝えなければ…。
俺は、ただ沙樹子の体が欲しいだけではないのだ。
大阪でのロケも、あっという間に最終日となった。
レストランを借りての撮影。
これでアップだ。
明日は、東京に戻る。
早く、帰りたい。
早く、沙樹子に逢いたい。
ラストカットを取り終えたとき、撮影していた近くのテーブルから、若い女の子が俺に手を振ってきた。
たぶん十代だろう、と俺は思った。
一色紗英に少し似ている、かわいい子だ。
それが俺と栞との、初めての出逢いだった。
39
撮影機材を片付けている俺たちスタッフの様子を、4人の女の子たちが面白そうに見ていた。
しばらくして気が付くと、照明機材を片す俺のそばに、さっき手を振ってきた女の子がしゃがんでいた。
ニコニコと微笑んで、俺のことをじっと見ている。
ヤバい!
かわいい。
「こんばんは。ねぇ、テレビの撮影? カッコいいよね、カメラマンって」と、女の子は楽しそうに言った。
言葉から、どうも地元の子ではないようだ。
聞けば、彼女たちは東京の短大の一年生で、短い旅行で関西に来たのだという。
半年前までは、高校生だったわけだ。
さすがに、若い。
機材を片付け終わった俺たちは、その女の子たちと飲みに行くことになった。
まぁ、自然な流れだ。
最初に手を振ってきた子が、俺のそばを付いて歩いていた。
俺たちは、プールバーに入る。
とりあえずは、ビリヤードというわけだ。
「名前なんていうの?」と、俺はそこで彼女に聞いた。
加藤栞。
それが、俺を狂わせた女の名前だった。