36


「ねぇ、どこに行くの?」と、沙樹子は甘えた声で聞く。


俺は、「いいところ」と、とぼけておいた。


ハンズを経由して、東急本店へと歩く。


さらに先へと進むと、そこはホテル街だ。


沙樹子が、急に押し黙る。


俺は、そんな沙樹子の反応を見て楽しんでいた。


しばらく歩いて、ある店にたどり着いた。


「ここだよ…」


沙樹子は、ホッとしたようだ。


笑顔が戻る。


そこは、ホテル街の奥にあるバーだ。


こじんまりしているが、落ち着ける雰囲気が好きだった。


店の奥に、ふたりで落ち着く。


楽しそうに話す沙樹子の顔を見ながら、俺はこのあとどうしようかと考えていた。


ロレックスの針は、午後8時23分を指していた。


37


軽い食事を取った後、俺たちは店を出た。


渋谷駅へ向かう、ということは自然とホテル街を歩くことになる。


カップルたちが、普通のことのようにホテルへと入っていく。


「ねぇ、行かない?」と、俺は沙樹子に聞く。


「絶対イヤ!」


思ったより強い拒絶に、俺は狼狽した。


なんで?


やっぱり、女はさっぱり分からない…。


「あのさぁ…。なんで今日はダメなの?」


「だってイヤなんだもん。痛いし」


「すぐに2回目やったほうが、痛くなくなるってさ」


「とにかくダメ」


こんなとき男は、情けなくてカッコ悪いものだ。


ハタから見たら、こんなマヌケなやり取りはないだろう。


あまりしつこくするのもマズいと思った俺は、仕方なくあきらめることにした。


沙樹子は、悲しそうな顔をして帰っていった。


好きならば愛し合いたいと思うのが、当たり前ではないのだろうか?


愛し合うという言葉の通り、愛を確かめたかったのに…。


俺は、また自信をなくしていた。


沙樹子は、また逢ってくれるのだろうか?