28


俺と沙樹は、新宿西口へ向かって歩く。


沙樹は、俺のひじに手を絡ませていた。


俺は、やめろよ!とは、言えなかった。



沙樹の話を総合すると、こうだ。


大学の薬学部を卒業した沙樹は、外資系の製薬会社に入った。


そこで知り合った5つ年上の男と、二年後に結婚した。


そのとき沙樹のお腹の中には、新しい命が芽生えていた。


ところが、だ。


ある事故が原因で、新しい命は消えてしまった…。


それから沙樹たち夫婦は、関係が壊れてしまったらしい…。


離婚へ向けての話し合いは、代理人を通じて既に最終段階まで進んでいるという。


俺は、沙樹になんと言葉をかけて良いのかわからなかった。


沙樹が背負ってしまった重すぎる過去…。


結婚式に参加することで、どれだけ辛い思いをしたのだろうか…?



俺と沙樹は、沙樹が泊まっているという、新宿副都心にあるホテルに着く。


「ひろ……部屋まで来てくれるよね?」と、沙樹は囁くように言った。


ロレックスの針は、午前1時24分を指していた。


29


俺と沙樹は、初めての夜を一緒に過ごしていた。


沙樹は、何事もなかったかのように、明るく昔話を口にする。


「ねぇ、覚えてる?ひろの誕生日のこと…」


俺は、無理して明るく振る舞う沙樹を、愛おしく感じて始めていた。


ホテルのベッドに座っている沙樹の姿に、あの日の沙樹の姿が重なる…。



あれは、俺の17歳の誕生日のことだった。


放課後の教室には、俺と沙樹だけがいる。


外には、珍しく雪が舞っていた。


誕生日のプレゼントが遅れることを一生懸命謝る沙樹が、俺は愛おしかった。


机に腰掛ける俺に、近づく沙樹。


俺は、ゆっくりと沙樹を抱きしめる。


交わしたキスは…、どんなキスだったろうか…。


7年という時間は、決して短くはないのだ。


「あの時、ひろが言った言葉が許せなかった…」と沙樹がつぶやく。


「えっ?」


俺は、沙樹の意外な言葉に動揺していた。