26


俺は、だんだんと腹が立ってきた。


沙樹に対してもだが、自分に対しても、だ。


そのとき、横断歩道をマイシティの方から、微笑みながら沙樹が歩いてきた。


7年振りに見た沙樹は…。


とても、キレイだった。


昔とは違って、大人の女になっていた。


俺が想像していた以上だった。


「ごめんなさい、急に呼び出して。本当に久しぶりだね、ひろ」


「あぁ、久しぶり。とりあえずどこかに落ち着こうか」と、俺は沙樹を促す。



沙樹を連れて、新宿の街を歩く。


しかし、この状況は、いったい何なのだろう?


昨日の夜までは、想像もしない、絶対にありえないことだった。


俺は、少し動揺していた。


しかし、沙樹にそんな素振りを見せるわけには、いかなかった。


見せたくは、なかったのだ。



逢って10分後。


俺と沙樹は、ビルの8階にあるベトナム料理を食べさせるバーにいた。


「よく電話番号がわかったね」と、俺は最初の疑問を口にした。


「だって教えてくれたじゃない、手紙の返事で…」と、沙樹は意外なことを口にした。


「そっか…」


沙樹は頬杖をついて、微笑みながら、じっと俺の顔を見ている。


そうはしていても、なんだか寂しそうに見えた。


「何かあったんだろ?急に連絡くれるなんて、さ」


だいたい急に連絡してくる場合、何かあったとしか考えられない。


しかも7年振りに、突然に、だ。


「ううん。ひろに逢いたかったからだよ。いけない?」


「いけなかないけどさ。ちょっとびっくりしたよ」


沙樹は、カシスオレンジのグラスを持ち上げてこう言った。


「久しぶりの再会に乾杯!」


俺は、ジンジャーエールのグラスを重ねながら、沙樹の左手薬指に光るプラチナのリングを見つめていた。


27


「そういえば、結婚したんだっけ?」と、俺は沙樹に聞く。


「うん、まあ、ね…」


沙樹は、そのことについては、急に口が重くなる。


あっ、これか…。


話したくないように見えることが、本当は一番話したいことだ。


そんなもんだ。


俺は、話の方向を少し変えてみた。


「いま、九州に住んでるんじゃなかったっけ?」


「そうなんだけど…今は…広島に戻ってる」


………。


どうやら、あまり話したくはないようだ。


「…で、今回は、どうして東京へ?」


「大学のときの友達の結婚式で…。だから…ひろに逢いに来たんだよ…」


ドキドキしていた。


そのとき俺は、沙樹の目に光るものを見た。


涙? 沙樹が泣いている?


沙樹は、俺の目を見て、ささやくようにこう言った。


「今夜は帰らないで…。そばにいて欲しいの…」


俺の脳裏には、沙樹子の笑い顔と、高校時代の沙樹の面影が、重なり合ってぐるぐる回っていた…。