22
沙樹子を、池袋駅まで送る。
沙樹子は山手線へ、俺は有楽町線へ。
行かなければならない時間が迫っていたが、俺たちはギリギリまで改札口の外で話をしていた。
離れたくなかった。
改札口を抜け、人ごみに消えて行く沙樹子を、ずっと見ていた。
今度は、いつ逢えるのだろうか。
会社に直接向かった俺は、またいつもの日常に戻る。
思えば、夢のような夜だった。
しかし、沙樹子のぬくもり、柔らかさを、この手は確かに覚えていた。
仕事を終えて、アパートに帰る。
また、ひとりきりの夜だ。
積み上げられた本と、ビデオテープに埋め尽くされた部屋。
ここが、俺の居場所だった。
俺は、黒い革のカウチソファーに腰を下ろして、ドクターペッパーのプルトップを外す。
そのとき、留守電の赤いランプが点滅していることに気付いた。
俺は、なぜだか胸騒ぎを感じていた。
23
俺は、点滅する留守電のボタンを押して、メッセージを再生する。
…メッセージは2件です…。
午後9時48分。
沙樹子からのメッセージだ。
内容は、主に沙樹子のシフトに関することだった。
今度は、二週間後かな…。
俺は少し寂しさを感じながらも、ホッとしていた。
予想外の展開で、昨日は沙樹子と泊まってしまった。
そして…。
俺は、不安だったのだ。
一度くらい抱いたからって、決して安心できる訳ではない。
好きになれば好きになるほど、心配や不安が募る。
情けないことに俺は、かなりの心配症なのだ。
相手のひとつの言葉やちょっとした行動で、俺のテンションなんて激しく上下する。
そんなもんだ。
もちろん、ハタから見ていてもそんなことは分からないだろうが。
俺は、沙樹子のメッセージを聞いて少しだけ安心した。
気持ちをちゃんと伝えあうことができれば、これからもずっと一緒にいられるかもしれない。
俺は、そう信じた。
留守電が、次のメッセージを再生する。
午後10時52分。
遠い昔に…聞き覚えのある…声が流れてきた。
えっ?
まさか…。
「…ご無沙汰しています。分かるかな?…山下沙樹です。…久しぶりだね、ひろ…」