16


彼女の肩をそっと抱いて、あの場所へと歩く。


今日は平日だし、人もそんなには多くないだろう。


別に多くても構わないのだが、なるべくふたりで居られる場所は確保したかった。



フロアには、いつものようにレゲエの攻撃的なリズムが流れていた。


俺たちは、ラッキーなことに奥のボックスに座ることができた。


さすがに普通に話ができる状態ではないが、お互いが体を寄せていれば話ができない訳ではない。


「あのさぁ、ひとつだけ聞きたいことがあってさ」と、俺は叫ぶ。


「えっ、なに?よく聞こえない」


俺は、沙樹子を引き寄せて耳元で言う。


「サッコってさぁ。B型だよね、血液型」


「そう。ひろちゃんA型でしょ?合わないんだよね、AとBって」


げっ!沙樹子に先に言われてしまった。


「B型女に、ひどい目にでも遭わされた?」


沙樹子は、いたずらっぽく笑ってこう言った。


「わたしが幸せにしてあげるから、大丈夫だよ」


俺は、苦笑いするしかなかった。


これじゃあ、形無しだ。


でも、沙樹子が気を使ってそう言ってくれたことは、よく分かっていた。


沙樹子のことを大切にしよう、ずっと。


俺は、そのときそう誓った。


「踊ろうか」


俺は、沙樹子の手を取ってフロアに連れ出した。


沙樹子を、抱きしめながら踊る。


ふたりの視線が、自然に絡みあう。


DJがスウィートなチューンをつなぎ始めた。


ジャネット・ケイだ。


「この曲知ってる?」と、沙樹子の耳元で囁く。


首を振る沙樹子の目をしっかりと見つめて、俺は言った。


「Lovin'You」


そして俺たちは、初めてのキスを交わした。


17


この場所での時間は、ゆっくりと流れていく。


つまり、時間の感覚を狂わせるということだ。


時計を見た俺は、マジで驚いた。


午前0時55分!


やばい!


「サッコさぁ、もう帰れないんじゃないの? 大丈夫?」


「うわっ、もうこんな時間!? 帰れないよ、もう…」


沙樹子は、ちょっと困ったような顔をしたが、すぐに諦めたようだ。


沙樹子は、明日は7時から仕事だという。


俺は、このあとどうするべきか?と、頭をフル回転させる。


そして、ひとつの決断を下した。


俺は沙樹子を抱きしめながら、こう言った。


「朝までふたりっきりで一緒にいたい。悪いことはしないから…」