14
俺は、沙樹子の肩に手を伸ばし、やさしく引き寄せる。
そして耳元で、こうささやいた。
「サッコ、待たせてごめん。早く逢いたかった。」
「わたしも…そうだよ」
「うん。うれしいよ。ちゃんと言うね。俺は、お前のことが、いま一番大切なんだ。ずっと一緒にいてくれないか?」
沙樹子は、ゆっくりと頷いた。
それから俺たちは、地下道を抜けて、北口駅前にあるイタリアンレストランに向かった。
地下に降りる階段は狭くて急だが、入口を入ると思ったよりも広い。
15
一番奥のテーブルに案内された俺たちは、これまでの時間を埋めるかのように、いろいろな話をした。
話している時間の多くは、俺だった。
彼女の留守電のメッセージを聞いて感じたこと、心配したこと、嬉しく思ったこと…。
そんなことを話しているうちに、カジュアルなイタリアンのコースは、とっくに終わっていた。
沙樹子はご機嫌で、ニコニコしながら俺の話を聞いている。
俺は、ロレックスをチラッと見る。
午後10時12分、か。
俺は、沙樹子を促して席を立つ。
「面白い店があるんだ。一緒に行こう」
沙樹子は、ちょっと不安げな顔をしたが、すぐに微笑んでこう言った。
「うん。連れていって」と。
勝負は、これからだ。
俺は彼女の手を取って、地上に向かった。