長く暗い階段を、地下に降りて行く。


入口で2000円を払って、フロアに出る。


ここは、レゲエしかかからないクラブだ。


名前は知らないが、顔見知りがたくさんいる場所。


しかし、この時間ではさすがに人は少ない。


俺は一度バーに寄って、いつものようにジンジャーエールをたのむ。


そしてフロアの脇の背の高い椅子に腰掛けて、マルボロのソフトパックから一本取り出し、リアルシルバーのジッポーで火をつける。


大下沙樹子、か…。


俺は、今日逢っていた彼女の名前をつぶやく。


あの女と、あまりにもよく似た名前。


これも奇跡なのだろうか?


俺は二本目のマルボロに火をつけながら、高校のときの、どうしても忘れられない女の名前をつぶやく。


山下沙樹…。



高校のとき、ひどい失恋をした。


こんなに涙って出るものだと知った、17歳の冬。


山下沙樹からの別れの手紙は、手編みのセーターと共に、俺の誕生日を少し過ぎて届けられた。


その手紙には、緑色のボールペンでこう書いてあった。


「着るなり捨てるなり勝手にしてください」と。


ただそれだけの言葉で、終わった恋。


俺は、何故沙樹がそうしたのか、何故離れて行ったのか、訳が分からなかった。


そして自分を納得させるために、その理由を、沙樹がB型だからだと思い込んだ。


だから仕方ない。


どうしようもない。


A型の俺とは、最初から無理だったんだ、と。


俺は、長くつながったマルボロの灰が、フロアに落ちたことに気付く。


そして、大下沙樹子がたぶんB型に違いないと感じた。


しかし、既に覚悟はできていた。


それでもいい。


今の俺は、あの頃の俺ではない。


ジンクスは、自分で破る。


俺は、ジンジャーエールを一気に飲み干しながら、沙樹子をこの店に連れてこよう、と決めた。


いままで誰も連れて来なかった、この場所に。