4
彼女に惹かれたのは、何故なんだろう?
俺は彼女と出逢った、渋谷の夜を思い出していた。
3対3で集まったその合コンの席で、彼女は大人しく落ち着いて見えた。
プライベートでは派手な子が多い、彼女たちの職業。
今夜の他の二人とは、明らかに違ったタイプ。
なんとなく気分が乗らなかった俺は、二次会のボーリングには行かずに帰ることにした。
そのとき、たまたま一緒に帰ることになったのが彼女だった。
「あのね、あたしあんまり合コンって好きじゃないんですよ。っていうか苦手で」と、彼女は笑った。
合コンのあの場では決して見せなかったその笑顔に、俺はやられてしまったようだ。
次の日、夜9時。
俺は、彼女に電話をかけた。
5
センター街からハチ公口へ向けて、俺たちはスクランブル交差点を渡る。
その時俺は、彼女に電話番号を聞いた。
このまま別れたら、もう二度と逢う事はないと思ったからだ。
俺は、誰にでも電話番号を聞いたりはしない。
「一回だけ言うから覚えてね。04XX-XX-XXXX」と、彼女はいたずらっ子のような顔をして、教えてくれた。
俺は、番号を記憶して、歩きながら手帳を取り出し書き込んだ。
かなり必死に見えたのだろう。
彼女は、とても面白いものを見たといった感じで、ニコニコしていた。
その笑顔も、とてもかわいい。
俺は山手線に向かい、彼女は東急東横線に向かう。
別れ際に、明日は彼女のシフトが早番であることを確認した。
電話をかける時間というのは、とても気を使う。
一番大切なのは、お父さんの出なさそうな時間を狙うことだ。
そして、彼女の仕事が終わる時間と、病院から自宅までの所要時間など、あとモロモロのことを考慮して導き出した時間、それが午後9時という訳だ。
電話をかけると、数コールで彼女が出た、と思った。
しかし、少し様子がおかしい。
それは彼女の妹だった。
さすがに声が似ている。
しかし俺は、なぜだか彼女とは違うと、すぐに分かった。
こんな時は、慎重にいくに限る。
電話では、彼女を笑わせることに全力を尽くした。
リラックスさせるように取り留めの無い笑い話や、あとは仕事のことを少し。
そんな感じで、一時間くらい話をした。
「この話の続きは、逢って話そう。次の休みはいつ?」と、俺は彼女に切り出した。
「うーん。次の日曜日なら大丈夫だよ」
「じゃあ、渋谷のパルコの前の交差点で午後1時に。車で行くから」
「うん、それじゃあ。お休みなさい!」
「あぁ、うん。お休み」
電話を切って可笑しくなった。
まだ午後10時なのにお休みなさい、か。
いい子なんだな、と俺は思ったっけ。
俺は、そんなことを思い出しながら、彼女の話をニコニコしながら聞く。
横浜の海は、穏やかに輝いている。
こんなに心が安らぐのは、久しぶりだった。
俺は話の切れたタイミングに、彼女にこう囁いた。
「俺、君の声が好きみたいなんだ」