彼女に惹かれたのは、何故なんだろう?


俺は彼女と出逢った、渋谷の夜を思い出していた。



3対3で集まったその合コンの席で、彼女は大人しく落ち着いて見えた。


プライベートでは派手な子が多い、彼女たちの職業。


今夜の他の二人とは、明らかに違ったタイプ。


なんとなく気分が乗らなかった俺は、二次会のボーリングには行かずに帰ることにした。


そのとき、たまたま一緒に帰ることになったのが彼女だった。


「あのね、あたしあんまり合コンって好きじゃないんですよ。っていうか苦手で」と、彼女は笑った。


合コンのあの場では決して見せなかったその笑顔に、俺はやられてしまったようだ。


次の日、夜9時。


俺は、彼女に電話をかけた。



センター街からハチ公口へ向けて、俺たちはスクランブル交差点を渡る。


その時俺は、彼女に電話番号を聞いた。


このまま別れたら、もう二度と逢う事はないと思ったからだ。


俺は、誰にでも電話番号を聞いたりはしない。


「一回だけ言うから覚えてね。04XX-XX-XXXX」と、彼女はいたずらっ子のような顔をして、教えてくれた。


俺は、番号を記憶して、歩きながら手帳を取り出し書き込んだ。


かなり必死に見えたのだろう。


彼女は、とても面白いものを見たといった感じで、ニコニコしていた。


その笑顔も、とてもかわいい。


俺は山手線に向かい、彼女は東急東横線に向かう。


別れ際に、明日は彼女のシフトが早番であることを確認した。



電話をかける時間というのは、とても気を使う。


一番大切なのは、お父さんの出なさそうな時間を狙うことだ。


そして、彼女の仕事が終わる時間と、病院から自宅までの所要時間など、あとモロモロのことを考慮して導き出した時間、それが午後9時という訳だ。


電話をかけると、数コールで彼女が出た、と思った。


しかし、少し様子がおかしい。


それは彼女の妹だった。


さすがに声が似ている。


しかし俺は、なぜだか彼女とは違うと、すぐに分かった。


こんな時は、慎重にいくに限る。



電話では、彼女を笑わせることに全力を尽くした。


リラックスさせるように取り留めの無い笑い話や、あとは仕事のことを少し。


そんな感じで、一時間くらい話をした。


「この話の続きは、逢って話そう。次の休みはいつ?」と、俺は彼女に切り出した。


「うーん。次の日曜日なら大丈夫だよ」


「じゃあ、渋谷のパルコの前の交差点で午後1時に。車で行くから」


「うん、それじゃあ。お休みなさい!」


「あぁ、うん。お休み」


電話を切って可笑しくなった。


まだ午後10時なのにお休みなさい、か。


いい子なんだな、と俺は思ったっけ。



俺は、そんなことを思い出しながら、彼女の話をニコニコしながら聞く。


横浜の海は、穏やかに輝いている。


こんなに心が安らぐのは、久しぶりだった。


俺は話の切れたタイミングに、彼女にこう囁いた。


「俺、君の声が好きみたいなんだ」