『恋愛小節 1990』 和泉ヒロト
プロローグ
2005年の、ある夏の日のことだ。
打ち合わせの時間調整のため、俺は渋谷パルコ前のエクセルシオールカフェで、アイスメイプルラテを飲みながら、涼んでいた。
そして俺は、店の前にある交差点を2階からボーっと見下ろしていた。
その場所には、想い出があった。
15年前のあの日、この交差点である女と待ち合わせをした。
車の中から彼女の名前を呼び、彼女を乗せて横浜へ向かったっけ。
懐かしいが、それは苦い想い出でもある。
この街には、そんな場所が多すぎる。
そして、恵比寿、新宿、池袋…。
どの街でも同じように。
歳を重ねるということは、そういうことなのだ。
1
合コンで知り合った、看護婦の彼女。
帰り道にソッコー自宅電話番号をGET!した俺は、次の日曜日にさっそくデートに誘った訳だ。
アメリカから持ってきたばかりの黒いポルシェ944で、練馬の自宅から渋谷に向かう。
待ち合わせは、渋谷パルコ前の交差点だ。
時間ぴったりに着いた俺は、交差点に立つ彼女の姿を見つけ、開け放してあったウインドウから彼女の名前を呼んだ。
俺は、常にウインドウを開けて車を走らせる。
エンジン音や風の音を、いつも感じていたいからだ。
信号待ちの間に、奇跡的に彼女を拾うことができた。
俺たちは、第三京浜を経由して元町を目指す。
「ねぇ。けっこうスピード出てると思ったけど、100キロなんだね?」と、彼女は言った。
彼女はこのメーターがマイル表示なのを知らない。
「まあね」と、俺はとぼけておいた。