――― 早く。雪納屋涼乃を連れて来い。 ―――
「ぅ・・・」
「・・・」
起きると、見知らぬ天井と、自分のほうを睨みつける赤い瞳が目に飛び込んだ。
「――涼乃ちゃんっ!!」
その赤い目の少女はあまりにも彼女に似ていて、思わずとび起きた。
すると、彼女は睨みをきかせた目を、さらに細め、呆れたように溜め息をついた。
「・・・私は涼乃じゃない。」
「・・・え・・・」
思い出した。
初めて会ったとき、涼乃の横にいた、お姉さん・・・だった。
「・・・すい、ません・・・私・・・」
「・・・伊織だ。」
「はい・・・」
伊織は水を持ってくると言って、その場を立ち上がろうとする。
カノンは慌てて伊織の服の裾を掴んだ。
「待ってください!!」
「!!」
どすっ
タイミングが悪かったのか、伊織はバランスを崩して、自分の真横に倒れてしまった。
カノンは、“すいません”と恐る恐る伊織の肩に触れた。
「・・・いきなり掴むな。で、何だ。」
「すいません・・・・・あの、涼乃ちゃんは・・・」
カノンが涼乃に話したいことは分かっていた。
「お前は、涼乃をどこに連れて行く気なんだ?」
だが、伊織は眉間にしわを寄せ、嫌悪を顔に貼り付けたまま、カノンに問うた。
カノンは狼狽したように、視線を泳がせた。
「どこって・・・あの人のところ」
「だから、あの人っていうのは誰なんだ。」
「・・・わかりません」
「はぁ?」
伊織は心底呆れたように、カノンを見た。
「でもっ・・・声が聞こえるんです。あの人の声が・・・」
「声だけでどうしようって?」
「・・・・・」
むかつく。
伊織は、カノンのおろおろした態度にイラつきながら、どこか涼乃を重ね合わせて、足が出るのを必死に抑えるのだった。
「ふざけるな。あいつは、アレでも私の大切な」
ガラッ・・・
突然襖が開いた。
伊織が振り向くとそこには、
『・・・大切な・・・何?』
なんだか嬉しそうにニコニコしている涼乃だった。その後ろにはシェン●ウ、一衛もいる。
気持ち悪い。ニコニコがニヤニヤに変わってきているぞ・・・!!
「――うるさい。」
『ぐはっ☆』
「ようするに、自分でもどこにその人がいるのか分からないってわけ?」
「・・・はい。」
シェン●ウは、お茶をすすりながらカノンを見た。
カノンは、なんだか申し訳なさそうに俯いて、しかし、膝の上に置いた手は拳を作り、焦っているようにも思えた。
大切な人を助けたい。
その気持ちだけが先走って、自分を抑えきれなくなって――
「でも、行かなければいけないんです・・・ゆういち君を助けなきゃ。」
『ねぇ・・・聞いてもいい?』
「・・・なんですか?」
カノンは、涼乃のためらいを含んだ声に、少し緊張を覚えた。
おそらく、聞きたいことはたくさんある。
その中には、きっと自分の素性についても。
『・・・カノンちゃんは、人間じゃないんだよね?』
「・・・はい。」
やっぱり気づいていたのか、と涼乃の瞳から目を逸らした。
「私は、元は、ある発明家が作った人工知能プログラムでした。」
「「『プログラム・・・!?』」」
カノンの言葉に、驚く一同だったが、シェン●ウだけは涼やかな目を向けている。
「神でも、妖でもない・・・その線があったとはね。」
カノンは一つ一つ、絡まった糸を解くように話だした。
ある日を境に、部屋に彼が来なくなったこと。
彼の息子だという雄一が、部屋に来て彼の死を知ったこと。
雄一は彼の最後の頼みを叶えに来たこと。
感情を知ってしまったこと。
雄一と友達になったこと。
神様だという男に出会ったこと。
自分が、ここに来てしまったのは、自分がそう願ってしまったからだということ。
すべて話すころには、日は暮れていた。
春先の、まだ涼しい風が部屋に入ってくる。
「・・・神様は、私を画面の外側に連れて来てくれたけど、その代わりに・・・雄一君を、この世界から消してしまった。」
私が願ったせいで・・・そう嘆き、泣き出すカノン。
ぽろぽろと零れだすそれは、紛れもない“涙”で。
感情をもったプログラムは、この世界へ溶け込もうとしていて。
でも・・・
彼女はここにいてはいけない存在なのだと、誰よりも彼女自身、理解していて。
『・・・助けよう。』
「っ・・・すず、の・・・ちゃん・・・」
そう、言わずにはいられなかった。
手を差し伸べなければ。
私が助けてあげなければ。
それが、自分の使命だと言わんばかりに、涼乃は彼女の手を取ったのだった。
to be continued ・・・
うーーーん!そろそろ章末が見えてきたかな?
現在、執筆中でございます。。
それにしても、涼乃ちゃん世話焼きさんですねー。
それでこそ、涼乃ちゃんです。はい。
次回、カノンちゃんたちはいったいどこへ向かうんでしょう。ひ・み・つ!ぐへぇ←