■受信料10%還元…「数字ばかり優先」
「受信料10%還元」を具体化するNHKの次期経営計画(平成24~26年度)の検討が大詰めを迎えている。松本正之会長ら執行部は値下げと災害対策などを合わせて「10%」を実現する方針で、値下げ分を当初案で4%、その後6・4%に引き上げたが、NHK関係者によると、経営委員会の数土(すど)文夫委員長(JFEホールディングス相談役)は8%への引き上げを要求している。25日の議決に向けて最終的な調整が行われているが、関係者からは「数字ばかりで本質的議論がない」との批判も出ている。
次期経営計画の検討は8月下旬に始まり、9月13日の経営委で執行部は、月額1345円の受信料を、クレジットカードなど自動払い契約者は月額70円、振り込み契約者は同20円値下げする案を提示した。これは4%の値下げに相当し、残りは大阪放送局の機能強化などの災害対策や、受信料免除世帯の拡大を「還元」に位置づけることで10%を実現するとしていた。
しかし、経営委側が値下げ幅の上積みを求めたため、10月11日にはそれぞれ110円、60円に引き上げた6・4%値下げ案を提示。3年間で100億円の赤字が出るという試算も示した。数土委員長はこれも不十分とし、8%値下げを求めているという。
数土委員長が値下げにこだわるのは、現経営計画にある「24年度からの受信料収入の10%還元」について、議決当時の古森重隆経営委員長(富士フイルムホールディングス社長)や福地茂雄会長が、「還元」を「値下げ」と明言していたためだ。数土委員長は11日の経営委後、「かつての経営委員長と会長が言ったことは重く受け止めねばならない」と強調した。
しかし、執行部側には数土委員長の“値下げ圧力”に不満も漏れる。
11日の案では、当初案にあった国際放送の強化や、後世のための震災アーカイブスの構築などが取り下げられた。国際放送は数土委員長が今年4月に就任して以来、強化を主張していた分野。NHK幹部の一人は「そこまで値下げしろというなら国際放送重視はできない。数字ばかりが優先され、ビジョンが見えなくなった」と戸惑いをみせる。
別のNHK関係者は「値下げを迫ったことで、執行部が予算などの数字を精査したプラス面はあった」としながらも、「大震災が起きた年に策定する経営計画なのだから、今後3年間の公共放送のあり方についてもっと議論が深められるべきだった。その感覚が欠けている」と批判する。
一方、値下げを重視する経営委員は「一般の民間企業よりコスト意識が低いことにNHKの課題がある」と指摘し、値下げ努力がNHK改革に直結するという考えを示している。
執行部、経営委側とも25日の委員会での議決を目指しているが、「赤字前提で計画案を出し直した執行部に、これ以上引く余地は少ないのでは」(関係者)との見方もあり、議決までには紆余(うよ)曲折も予想される。(草下健夫、織田淳嗣)
【用語解説】受信料10%還元
現行のNHK経営計画は平成24年度から受信料収入の10%還元を行うと明記している。発端は19年1月、菅義偉(すが・よしひで)総務相(当時)が受信料支払い義務化と引き換えに2割前後の値下げを主張したことで、義務化は見送られた一方、20年10月に議決された現計画に「還元」の表現で盛り込まれた。福地茂雄会長(当時)は国会で「還元は値下げと理解している」と答弁した。