警察庁は、暴力団対策法の一部改正案を来年の通常国会に提出する方針を固めた。企業への襲撃を繰り返す暴力団を新たに「特に危険な暴力団」として指定した上で規制の対象とし、企業周辺の徘徊(はいかい)を禁止する条項を盛り込むことなどを検討している。学識者らでつくる有識者会議の意見を聞き、年内にも骨格をまとめる。【鮎川耕史】
暴対法の改正は5回目。暴力団排除条例が全都道府県で施行され、暴力団との関係を断つ動きが広がる中、それを阻もうとする暴力団側の不当要求や報復から市民や企業を守ることが規制強化の狙いだ。
新たな規制は、凶器を使用する暴力行為を企業に対して繰り返している暴力団が対象。こうした暴力団を「特に危険な暴力団」として指定し、構成員が被害企業の周辺を徘徊する行為などを禁止するほか、暴力団事務所の使用を制限することなどを想定している。
企業襲撃の実行犯が検挙されていないケースでも、捜査資料などから特定の暴力団の関与が明らかな場合は指定可能とする方針だ。具体的な指定の要件については、有識者会議の意見も踏まえて議論を進める。
また、暴力団同士の対立抗争で市民が巻き添えになるのを防ぐため、抗争を続けている暴力団の構成員に対し、抗争相手の居宅や療養先の病院の周辺に近づくことの禁止も検討する。
暴力団事務所の使用差し止め請求訴訟を住民が起こそうとする際、暴力団側からの嫌がらせを恐れて断念する事態を避けるため、暴力団追放を推進する団体(暴力追放センターなど)が訴訟を代行するしくみも導入する方針だ。
有識者会議は刑法や行政法の学者、弁護士、企業団体の代表ら13人で構成し、28日に初会合を開く。
【ことば】暴力団対策法
92年3月施行。一定の要件に該当する暴力団を「指定暴力団」とし、その構成員が、人の弱みにつけ込んだ金品の要求やみかじめ料の要求など「暴力的要求行為」を行った場合、公安委員会が中止命令や再発防止命令などを出せると定めている。命令に違反した場合の罰則もある。施行から昨年までの中止命令は3万7047件、再発防止命令は1476件。
◇抗争や襲撃 九州で激化
暴力団対策法改正の背景には、九州などで暴力団の対立抗争や企業襲撃が激化していることがある。警察庁によると、暴力団によるとみられる企業に対する加害行為は今年上半期(1~6月)に20件発生し、前年同期を11件上回った。拳銃や火炎瓶、手投げ弾などが使われた事件は12件で、うち10件が福岡県、2件が佐賀県で発生している。
九州北部では、道仁会(福岡県久留米市)と九州誠道会(同県大牟田市)の対立抗争が深刻化。警察庁によると06年5月以降、両組織の抗争によるトラブルは39回に及び、死者は12人に上った。
福岡県は今年4月と8月の2回、暴対法の「抜本的改正」を警察庁に要請した。今回の改正で、企業襲撃や対立抗争に関与する暴力団への規制を強化するのは、この要請の影響が大きい。警察幹部は「暴力団排除条例の施行で暴力団との関係遮断が企業に求められる中、市民への危害を防止する対策は九州地区だけでなく全国的な課題だ」と話している。