あの頃の夏って、何だったんだろうな




山の向こうから湧き上がる

大きな入道雲


自転車で駆けて

駆けて


向かっていって




大きな雨粒の

落ちてくるのに気がついて


慌てて戻って



それでも、ずぶ濡れになる




あれだろうか







それとも


小さなお気に入りの

レンガのトンネルで



雨音を聴きながら



シズカのシダの葉が

嬉しそうに揺れるのか



ぴたぴた落ちる雨粒が

シダを通って滴って



雨とは別のものになっていくのか






エサのない棒切で釣る

ザリガニ





見つけては噛ってみる

スカンポ





滑り降りた土手で

潰された草が放つ

匂い




刈りたての草も



しばらく干されたのも





全部が違った匂いで








走る風に飛ばされた帽子が

ゴム紐だけでぶら下げられて



眼に流れ込む

汗の痛み







そういう夏は

いつの間にか終わっていたね






大人の夏とは

違っていた気がする




何か

違ったものが

在った気がする