酔っ払いが泳ぐように街を行き交う午前三時。
ゴミ袋が饐えたにおいを放つ路地に、救急車が音もなく滑り込む。
赤い回転灯が雑居ビルの壁を撫でる。
怒号と嬌声を縫ってぬるぬると進むタクシー。
火がついたままの煙草が赤い弧を描き、アスファルトにコツンと落ちる。
それが合図だったのであろうか、あるいは誰かが耳許で囁いたのか。
また誰かが倒れる。
例の歌のように、また誰かが倒れる。
世界を朧げに彩る光の渦はアルコホールに溶け、脳内を白くぼやかしている。
多分、ここには真の暗闇は存在しないのだろう。
街はただ、産まれる欲望を飲み込み続けてブクブクと肥え太る。
終わりのない楽園は行き場のない地獄に等しい。
目に見えるものだけを追いかける者は、いつしか目に見えないものに追い詰められる。
享楽に浸かる若者にも、地球を我が家とする老人にも朝は平等にやって来る。
それは優しさなのか厳しさなのか、はたまた冷たき無感動か。
すべては透明の膜越しに繰り広げられる夢のように、儚くたゆたう物語の一つになる。
そして朝日が空を薄紫に染める時、囁き声はもう聴こえない。
それを幻聴と君は呼ぶ。