俺はテロリスト集団「EGOIST」というメンバーの工作員だった。
俺の生まれ育った地域では毎日死体に溢れていた。銃声が鳴り響き、血が流れていた。水を飲むより血を飲むほうが多かった時もあった。
「なるほど。悲惨な世界だったんだね。」
俺がひとりごちていると隣の金髪の女が話の腰を折るように話してくる。今までの経緯を話せと言ったのはお前のはずだ。少し黙ってくれると嬉しいのだが。
まあいい、話を続けよう。
生きるために仕方なく人を殺していた。そのためのスキルを手に入れて、語学もある程度は覚えた。その過程で日本語も覚えた。
「なんで人を殺すのに言葉を覚える必要があったのさ。」
隣にいる女はまた話しかけてくる。
その疑問の答えは簡単だった。
俺は日本にいる時貞摩耶という日本に本社を置く、世界的大企業のKKIUコンツェルンの令嬢を殺すためだった。
「時貞摩耶・・・・・・。ああ、君が守りたいと思っているあの子か。」
KKIUコンツェルンは俺たち、EGOISTの目の敵であった。KKIUはEGOISTの敵組織に武器供与を行なっていたのだ。
だからこそKKIUを黙らせておく必要性が出てきた。そこで日本語を覚えていた俺は日本という国へ彼女を殺すために俺は日本に訪れた。7ヶ月前の出来事だった。
日本に来てしばらくは時貞摩耶を殺す為の周辺調査を行なっていた。
だがこの国はあまりにも平和すぎた。人々からは争いの血を感じなかった。一言で言うならぬるま湯に浸かりに来たみたいに思えてきたのだ。
そして俺はそのぬるま湯に浸かりすぎてすっかり平和ボケしてしまったのだ。
任務も使命も忘れ、毎日バイトに明け暮れ、平和な日々を送っていた。人を殺すという目的も忘れ、自分がまるでここにいるだけで過去を洗い流し、浄化されていっているような気がしていた。無線通信による定時連絡もしなくなっていった。
そして俺はEGOISTとの連絡を絶った。
その後も俺はぬるま湯に浸かった生活を続けていた。そして俺は彼女と出会ってしまった。
時貞摩耶に。普段俺が散歩している道に居た。
彼女は可憐だった。何も知らなさそうでいて純粋なその目はそれまで汚い世界にいた俺の心を浄化していった。初めて彼女を写真で見た時は殺すためのターゲットにしか思えなかったのだが実際に会ってみれば可憐で汚れを知らないその瞳に俺は吸い込まれていった。
だが彼女との会話は無かった。
その後も彼女を見かけるたびに俺の心は動いていった。憧れへと変わっていった。
そして運命という歯車は急に回り始めた。
俺が普段散歩している道に偶然彼女は居た。
「あなたはいつもここを散歩していらっしゃる方ですね?」
彼女は何の分け隔ても無く俺に話しかけてきたのだ。殺そうとした相手に挨拶をしたのだ。
そうしてその日は日が落ちるまで彼女と話した。その時間はあまりにも尊く、なにものにも変えがたい時間だった。
だが、そうしているうちにEGOISTは痺れを切らして日本に訪れてしまっていたのだ。
俺を死んだものと考え、なりふり構わず奴らは入国してきたのだ。
俺はなんとしてでも彼女を助けたかった。そしてけじめをつけたかった。
「殺しから手を引いた」というけじめが。
そして俺はもう一度銃を手にとった。彼女を助けるために。
EGOISTの殺し方は至極シンプルなものだった。日本という平和ボケした土地では何くわぬ顔して彼女の近くを歩いてそのまま銃を放つか鈍器で撲殺すればいい。
だがそんなことはさせない。
そう決意して彼女と接触し、護衛についたが奴らは俺個人よりも何枚も上手だった。
彼女は俺の護衛の意味もなく、凶弾に倒れた。
そして俺は血に濡れた彼女を抱くと涙をこぼしていた。ひどく辛く悲しかった。自分の全てをもっていかれた気分になった。
「あいつら許さねえ・・・・・・・!許さねえ・・・・・・!!」
俺の思いは口に出ており、涙を流しながらも怒りに震えていた。
「そこまでだな、俺の記憶で覚えているのは。」
俺はガレージの冷蔵庫からジュースを取り出し、コップに注ぐ。
「そして気がつくとお前が目の前にいた。」
目の前の女は俺が怒りに震えていた時に突如として現れたのだ。
「お前は一体何物だ?」
その空間は周りが真っ白に包まれていた。「無」と表現するのが正しかった。
摩耶の肉塊もその空間にありはしなかった。
「君の怒りと哀しみが私を呼び出したんだよ。」
女はニコニコと答えた。
「あんた、名前は?」
俺は質問する。
「私?私はアリアでいいわ。」
女は自慢げに答える。何を自慢にするところがあったのだろうか。
「で?俺に何の用だ?」
「君にチャンスを与えようとおもってね。」
女の発言がこの時は意味がわからなかった。
女がポケットから長方形の紙を取り出す。
「このチケットで君は過去に飛ぶことができる。」
そこには今日の日付が描かれていた。
「但し、1回飛ぶたびに君の寿命を1年減らすことになる。」
女の発言はこれまでの軽口を叩くような口調だったがその発言だけは重く、俺の心にズシンとのしかかるモノがあった。
が、俺は迷うことは無かった。
「わかった。」
「よし。覚悟はできていたようだね。」
彼女はチケットを切って俺は初めて過去に戻っていった。