男は逃げていた。
何も考えずに、必死に逃げていた。
自分の後ろを振り返ると「怪物」がいた。
その怪物は腹に口があり、皮膚の色はゴーヤのような有機的な緑、口は4つに開かれていた。身長は男の1.5倍位であろうか。
「だ、誰か!誰か助けてくれ!」
男の声は届かなかった。人が通らないこの山道では。
男の首に何かが絡まった。ぐい、と引っ張られた。
その引っ張るものは怪物の細く伸びた腕、触手のようなものだった。
「た・・・たすけ・・・」
首を絡まれ男は声を出せなかった。
怪物は口をいっぱいに開き、触手を自分の方へ引きよながら男を食わんとしていた。
その時だった。
怪物に1つの流星が降り注いだ。
瞬く間に怪物は蒸発した。
男が振り返って見ると青い巨人が立っていた。男の10倍はあり、山に隠れていなかった。手には剣を持ち、怪物の肉塊のようなもの怪物が剣の先にまとわりついていた。
その後ある噂があった。
怪物がこの世界に存在しているという。その怪物は人を襲うも何者かによって存在を抹消されているとも。その怪物は近くの山に生息しているとも。
くだらない、そんなものある筈ない、子供の戯言だと。大体の人間はそんなことを言ってはぐらかした。
が、男、大久保隆はそうは思わなかった。
5年前に自身が体験した怪物に襲われる場面と青く大きな剣を持った巨人の件
記者としてこの事件の真実を追い求め、世に知らしめてやる!そんな根性が原動力だった。
が、この男にそんな力も権力も無かった。
今の彼の仕事は1記者として今の現場、中学剣道会の剣道大会地区予選をリポートすることであった。
「つまんねぇなぁ~」
自分の眼前にある試合を見ながらそんなことも思っていたりもした。
十分記事に出来る事柄も抑えただろうし、少し煙草を更かしに行こうと思い、喫煙室へと向かおうとしていた。
階段を下がっていき、渡り廊下に差し掛かったとき、ドンっ!何かにぶつかり、手に持っていた煙草を地べたに落としてしまった。
つっう・・・。少し痛がっていると目の前には剣道着を着た少年がいた。
「す、すいません!」
少年は深々とこちらを謝った。
「まぁこっちも前見てなかったしな。」
落ちた煙草を拾って喫煙室に向かって歩こうとしたら、1つ聞きたい事が残っていた。
「そこの少年!」
その場から離れようとしていた少年を呼び止め、
「君は怪物なんて概念を信じているかね?」
え?面食らったかのようにこちらの顔を見、
「僕はそういうのよく分からないんですよ・・・。いても面白いだろうし、居なくても面白いだろうし。」
「すまない、変な事を聞いたかもしれんな。」
いえ、そんなことは。と少年は言い、お辞儀をしてその場を去った。
大会も閉会式を迎え、片付けを行い始めていた。
隆は先にその場を離れ、自身が所属している新聞社に戻ろうとして車に乗った。
「いい記事ならありますよ。安心して待っててくださいよ。」
上司に電話にて報告して隆は車を走らせた。
隆は山道を通っていた。辺りには木々しかなく、コンビニも何キロもあとにあるかな?という具合だった。
そして5年前、隆が怪物と遭遇した場所でもあった。
「まだあの怪物は居るのか・・・?」
居るとしたらば俺は写真に収めて大スクープを確保してやる!そんな意気込みだった。
手に持っていたカメラは常に人差し指はシャッターを切る準備をしていた。
が、そんな気構えが役に立つ事は無かった。
やはり森林は森林であり、緑が広がるだけであった。
隆は怪物が現れなかったを残念と思うのと同じく現れなかった安心感を感じていた。
諦めがつき、車の方へ戻ろうとした瞬間だった。
あの時、剣道の大会のところでぶつかった少年がいた。
少年は自分に背を向けてるようになっており、正面は見えなかったが、その剣道着に見間違えは無かった。
「そこの君!」
隆は少年に声をかけた。
少年は振り返り、え?と言いたげな驚きの顔を浮かべていた。
「こんなところで何をしているんだ?」
少年に近寄って行くと
「来るな!」
鬼気迫る声で少年は叫んだ。
だが隆はそれを気にする事はなかった。
ずんずん近づいていくうちに気づいた。
近づいた時には気づくのが遅かった。
あの時、5年前に見たような怪物が少年の目の前におり、隆自身もまた足が震えた。
「だから!言ったのに!」
少年は独りごちた。
怪物はグァァ!と大声を放ちながら口から火を吐いた。
その火を吐いた方向はデタラメだったが、火が当たった場所は燃え上がっていた。
隆はただただ震えていた。これは一体何が起こっているのか。彼には全て理解出来る時間は無かった。
「くっ!仕方ない!」
少年は胸のポケットから何かを取り出した。
「うおおおおおおおお!」
少年はそれを大空にかざした!
瞬間、少年は青い光に包まれた。
その光は段々燃え上がり、大きくなり、ある形に変えた。
それは隆が5年前に見た青い巨人の姿そのものだった。