雪の中、清花は自宅に着いた。
コートを脱ぎ、海外の恋人にメールをしようとパソコンを立ち上げた。
清花の恋人の聡思(さとし)は、HONDAの海外支部にいた。
清花が彼と出会ったのは、彼女がまだ、17歳の頃、F1レースのサーキットだった。清花は、サーキットに立ってレースクイーンをしていた。聡思はといえば、自身が設計したHONDAのレーシングカーがデビューする際に、スポンサーとともにサーキットに立ち合っていた。
サーキットに現れた聡思を、清花はサーキットのレースクイーンたちに混じって眺めていた。
17歳だったが年齢を19歳と偽っていた。なぜそこまでしてレースクイーンになったかというと、とあるカナダ人のF1レーサーのファンだったからだ。憧れのレーサーをサーキットで、間近で見てみたいと思った。
その夢は、もうすぐ叶いそうになっていた。そのレーサーが来日するというのだ。
サーキットには真新しいレーシングカーが並んでいた。HONDAの、黄色いカートが眩しく太陽の下で光っている。
そこへビジネススーツを着て現れたのは、聡思だった。レーシングカーを設計した張本人だ。レースのスポンサーとともに、レーシングカーを見ながら話し込んでいた。
サーキットに立っていた清花は、突然先輩に肩をたたかれた。清花の財布が、休憩室の自販機の前のテーブルに置き忘れてあったという。先輩は、財布の中に、清花の通う高校の学生証を発見した。
清花は、年齢詐欺でレースクイーンをクビだと伝えられ、ショックだった。憧れのレーサーが来日する一週間前だったのに。
清花はすっかり意気消沈しながら、家に帰るためにロッカールームで荷物をまとめていた。憧れのレーサーに会う夢は、儚く消えたと思った。清花は、悔しくて泣けてきた。自販機の前のベンチに座ってむせび泣いていると、ビジネススーツを着た男が声をかけてきた。缶コーヒーを買いに来た聡思だった。彼は、年齢を偽ってレースクイーンをしていた清花を責めずに、優しく清花の話を聞いてくれた。そして、彼女の憧れのカナダ人のレーサーが、HONDAのファンであり、彼とは連絡を取り合い呑んでいる仲だと言った。そしてなんと、その憧れのレーサーも出席する来日パーティーに清花を招待してくれたのだった。おかげで清花は、憧れのレーサーを間近で見ただけでなく、パーティーでシャンパンを飲みながら話も出来た。2次会では夕食後にワインを飲みながら、聡思とレーサーと、清花の3人で語りあった。
それがキッカケとなって、清花は聡思と付き合い始めた。始めは聡思に感謝していたが、だんだん彼に心を惹かれていたのだった。

その聡思は今、シアトルにいるはずだ。彼が留守にしているマンションにいたのは、一体誰なのだろう?

清花はパソコンのメールを打った。

「聡思、今シアトルにいるよね?今日、聡思のマンションに誰かがいたよ。誰かに鍵を渡したりしてるの?」

続く☆