一歩外に出れば他人…か。
わかってる。
わかってはいるけどさ。
志村さんから数日前に連絡があった。
うちの会社のお店に予約が入り、番組のスタッフ大勢を引き連れて来てくださるらしい。
志村さんは言わば私たちのキューピッド。
いや、それ以前から良くしてくださっていて、お世話になっているのだけれど。
当日、私は早めに他の仕事を切り上げお店へと向かった。
十分にお店のスタッフの数は足りているし、店長やマネージャーも信頼している。
でも志村さんへの接客は自分でしたい。
そう思い、私はみんなに頭を下げた。
「いらっしゃいませ。お久しぶりです。」
“沙織ちゃん元気?”
志村さんを先頭としたお客様をお部屋にご案内する私。
どれくらいの人数だろう?
お店の中で一番広いお部屋が少し狭く感じるくらい。
その中に…
あ…
いた…。
そんなこともあるのかもしれないと、予想しなかったわけじゃないから…
そこまで驚きもしないのだけれど。
こんな所で(という言い方が適切かどうかは置いといて)不意に目が合ってしまう雅紀と私。
でも…
何もない。
一歩外に出れば他人。
その通り。
私も一応仕事中。
もちろん雅紀だって、これも仕事のうちでしょう?
気にしない。
気にならない。
のは…嘘かな。ハハ
ちょっとだけ寂しいって思っちゃった。
でも仕方ない。
さぁ、仕事!仕事!
そう自分に言い聞かせて忙しく動いてた。
志村さんのお席に呼ばれて一杯だけビールを頂いたその時だった。
(もうやだぁ~♪)
若い女の子の猫撫で声とまんざらでも無い雅紀の笑顔。
見たくない光景。
仕事のお付き合い。
仕方ない。
私にだってそういう状況が無いとも言えないし。
でも見ちゃったから…
見なきゃ気にならない(というかわからない)ことも、見てしまえば気になって…
はぁ…
笑顔がモットーの私でも、さすがに凹むなぁ。
「ごちそうさまでした。すみません、ありがとうございました。」と志村さんに挨拶をし、一旦奥へと引っ込む私。
気分を変えようとお店の外へと出ると、今日は綺麗な星空。
すぅ~っ…はぁ…
大きく深呼吸をすると夏の夜の匂いがした。
この匂いを嗅ぐとちょっとワクワクする。
遊びたくなる。
今は仕事中だから遊べないけど…
雅紀とどこかへ出掛けたいなぁ~なんて。
ブーッ・ブーッ・ブーッ…
ちょうどその時、そんなことを考えていると、ポケットの中の携帯が震えた。
‘ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん
’それは…何回謝るんだ?って笑っちゃうくらいの雅紀からのメール。
謝らなくてもいいのに…
私も心の中で「ごめんね」って呟くの。
そしてそのメールの最後。
画面をスクロールしていった一番最後に…
‘愛してるから

’って(笑)
もう笑えるでしょう?
この‘

’絵文字もきっとしてやったりな顔なんだろうなぁ…雅紀。「くす(笑)」
この不意打ちのメールにやられた。
私はう~んと伸びをして、仕事へと戻ったの。
雅紀がいるから頑張れるんだもん。
さおちゃん最後までやってやります
なんてね。クスクス宴が終わったのは明け方。
本来の閉店時間をとっくに過ぎた時間だった。
志村さんをお見送りして、それからお店の後片付け。
一緒に頑張ってくれたスタッフの最後の一人も見送って、お店に鍵を閉めて。
裏口から出たすぐの自販機の影。
ぼんやりと明るいそこには…
『お疲れ…』
笑顔の雅紀がいた。
仕事で疲れた後の不意打ちの笑顔。
こんな待ち伏せも悪くない。
「こんなとこいたらダメじゃん?クスクス」
『あ~だよね?フフ』
「まーくんまた事務所に怒られるよ?クスクス」
『そしたら素直に謝るよ。フフ』
「謝るの得意だし?クスクス」
『まぁね。フフ』
私は雅紀に近付き、腰に腕を回した。
「こんなことしたらもっとダメ?クスクス」
『ダメだねぇ。フフ』
「まーくんさおちゃんのこと愛してるんでしょう?クスクス」
『愛してるよ?うっひゃっひゃ♪』
「笑っちゃってるし。クスクス」
お互いにぎゅーっと抱きしめ合いながら…
本当はダメだけど…
明け方、人気のない道路で…
ちゅっ…♪
軽く触れるだけのキスをした。
『帰ろっか?』
「うん♪」
私たちは手を繋いで歩き出す。
もちろん、私たちの愛の巣に向かって。
明日は、今日よりももっともっと素敵な一日になりますよーに。
不意打ち…type『A』
お・し・ま・い