前回の振り返り


なぜ必要なのか?

では、なぜディアログが必要なのでしょうか。
私は以下にあげる時代の変化が理由にあると考えています。

    1. 先の見通せない、正解のない時代がきた
    2. 多様性(個性)が尊重されるようになった
    3. 自分で自分の生き方を決められる世の中になった


1. 先の見通せない、正解のない時代がきた
VUCA(ブーカ)と呼ばれる不確実で先の見通せない時代になりました。※VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

テクノロジーの進展や、自然環境等の変化、グローバル化などにより5年後、10年後はもちろんのこと、来年・再来年ですらどうなっているか見通せない時代になっています。

10年前に今の社会や生活を予想できた方がどれだけいたでしょうか。

比較的安定し過去のトレンドが続くと思われる状況であれば、過去の経験や知見を今後の見通しに活かすことができます。年長の人や先輩に過去の成功体験や失敗談を聞けば、ある程度うまくいく生き方をすることができたでしょう。

しかし、VUCAの時代には過去のトレンドから未来を見通せなくなってしまったため、誰も正解を知らず、誰も答えを教えてくれません。

そういった時代には自分で考えて、自分なりの正解を出しながら進んでいくことが求められます。


2. 多様性(個性)が尊重されるようになった
工業製品では自動車のT型フォードが典型的な例であるように、以前は少品種大量生産が中心でしたが、技術の進歩や顧客嗜好の多様化に対応するため、徐々に多品種少量生産が進み、現在ではかなり多様なカスタマイズができるようになっています。
ビジネス用のスーツでも、オーダーメイドが以前よりも一般的になってきました。

インターネットの時代になり、この傾向はさらに進んでいます。
Amazonなどの通販サイトでよくみられるレコメンデーション機能(個人ごとの閲覧履歴や購買履歴をもとに、その方が興味を持つ商品をおすすめする機能)によって同じ通販サイトを見ていても、個人ごとに違う内容が表示されることは一般的になっています。

さらにそう遠くない将来には、医薬品の世界でも個人のDNAに基づくオーダーメイドの薬が処方されるようになるといわれています。

生活の面でも、同様の流れが見られます。
ベストセラーとなったリンダ・グラットン教授の『ライフシフト』によれば、これまではエイジ(年齢)とステージが一致しており、みんなが同じ年齢で学校に通い、就職して、リタイアしていました。ところが人生100年時代になったことで、エイジとステージは人によって異なるようになっています。

ある方は「勉強→仕事→リタイア」という人生を送り、別の方は「勉強→仕事→勉強→リタイア」、さらに別の方は「勉強→リタイア→仕事→勉強・・・」。

エイジとステージが同じであれば、人生は流れに任せていれば済んだかもしれません。しかし、エイジとステージが一致しない時代になると、自分自身で自分の生き方を選んでいく必要があるのです。

周りの人や世間の意見に忖度するのではなく、自身の本当の声と「対話」しながら方向性を模索していくことが大切です。

(現代のカウンセリングの基礎を作ったといわれるカールロジャーズ氏はこれを「内臓感覚=うちなる実感」と表現しています。)
『カールロジャーズ』諸富祥彦著


3. 自分で自分の生き方を決められる世の中になった
自身の心の声(内臓感覚)と対話し、自分がほんとうに望む生き方が分かったとしても、それが実現できなければ考えるのもむなしいですよね。
しかし幸運なことに、現代は自分で自分の生き方を決められる時代になっています。

「自分で自分の生き方を決める」のは当たり前のことのように感じるかもしれませんが、この日本でもほんの数十年前まで自分で自分の生き方を決めることはできませんでした。

職業については、親が農家であれば農業を、職人であれば職人に、お店をやっていれば商人としてその店を継ぐのが当然でした。
性についても男として生まれれば男として、女として生まれれば女として生きることを当然のことと考えられていました。

人生を共に歩んでいくパートナー(結婚相手)選びについても、自分の意思ではなく親や親戚が決めることが一般的だったといえます。
一部の国では現在でもこのようなことが行われている国も残っていますし、日本でも戦前に書かれた小説を読むと、親が結婚相手を決める場面は普通に出てきます。(中には持参金付き!ということも)

いまでも100%思い通りにならないこともあるでしょうし、強い抵抗を受けることもあると思います。しかしLGBTやダイバーシティという言葉が受けいれられる時代になってきたことからも明らかなように、昔に比べれば多様性は尊重され、自分の生き方を決めやすくなっているのも間違いないでしょう。

さらに2021年に入って「メタバース」と呼ばれる仮想空間の注目度が高まっています。この仮想空間では人々は自分の分身(アバター)を使って現実世界と同様の活動を行うことができるようになるといわれています。

将来的に「メタバース」世界が一般化してくれば、「現実世界の自分」とはいっさい関係のない「自分の望む自分」を自分で決めて生きていくことが当たり前になるかもしれませんね。

「わたしは、万人が望むようなものの中に、ほんとうによいものがあると思ったことはありません。
『人生の短さについて他2編』セネカ 中澤務訳


以上みてきたように、自分が望む生き方が選び取れる時代が来ています。

もし“イヤなこと”をやり続け、自分の望む生き方ができていないとしたら、それは他人の反対ではなく、自身が決めていないことが原因ではないですか?


次回に続く

芦屋みちお