台風の影響で大風と、不意に激しく降る雨。
はぐらかすような、気休めの晴れ間。
繰り返す、いたずらな空。
夫君と最後に吐息を漏らしたのは真相で。
多分、それが真相で。
だけど、真相というには曖昧で。
「司法解剖は断ったんだ。もう、切り刻む必要はないって思ったし。傷つくには十分な材料が揃っていたからね。」
黙って夫君の顔を見ていた。
訃報から2週間だろうか。
その間、私のほうが3度ほど彼らの家を訪れていた。
のに。
ただの一度も夫君とは会わず。影も見かけず。長男くんに「夫君、忙しくしてるの?」と訊ねた時も「うん、大丈夫。」と返されて、それ以上は何も言えず、出来ずだった。
私自身、妻ちゃんの遺影の前にいてとめどなく溢れるものに支配されていたし、実母の件もしっかりと私を悩ませている現状。きっと私自身も穏やかな平常心なんか、今のところ持ち合わせてなんかいないんだ。
そんな自覚さえ、今頃やっとぼんやりとしてる段階なのだし。
改めて見入った夫君の顔は憔悴していて。元々彫りの深い顔立ちとはいえ、ますますに鼻筋が通って見えて。ギリシャの彫刻かよ?って突っ込んでやろうかとさえ思った。
けど。
内容があまりにそぐわなかったから、辞退せざるをえなかった。
「警察は言うんよ。司法解剖で新たな事実が分かる可能性が大きいって。でもさ、そういわれてのこの流れのってなると、もう、それで十分って思っちゃうじゃない?」
「男がいたんだ。」
ただ静かに夫君の顔だけ見てる私に、夫君は独り言をつらつらと聞かせてくれた。
そして、沈黙。
「そういうことなの?」問いかける私に「多分、そうで。それで苦しんだんじゃないかな?言ってくれれば離婚でもしたし、話きいたんだけどな。」
「お腹に……ってことなの?」少し、私のほうが過熱してしまってたかもしれない。
黙って頷いた夫君の表情が思い出せない。
43歳。年下38歳との間に。
そりゃね、きっと、夫君の存在がない間柄だったとしても悩んだよ。
夫君の優しさを知り尽くしてるから尚更に、苦しんだよ。
妻ちゃんのことだから、自分の優しさにも、苦しんだよ。
天気予報が随時変わっててね、明日は80%で雨っていってたくせにさ、雨雲レーダー見てみたら曇りの予報に変わってんの。
ねぇ、生きてれば変わるんだよ。
きっと、生きるってそういうことなんだよ。