新宇宙の女王である君と逢瀬が許された、ただ1つの理想郷。
君と僕の理想郷。
そんないつもの約束の地。
光の中でしか生きられない幻の蝶がひらひら舞うのを眺めながら
青々とした柔らかな芝生に並んで座る君と僕。
「綺麗ですよね。」
突然、君が言った。
僕らの目の前で舞い続ける蝶のことだと思って、
「そうだね。この蝶の美しさは初めてここで見つけたときから変わらないな。」
と答えたら。
「蝶のことじゃありませんよ。」
と、君が『もう』と口を尖らせた。
「じゃあ、何のことだい?」
「セイラン様のことです。」
君の答えに思わず顔をしかめた。
いきなり何を言い出すんだ、一体。
確かに他人から評価されるとき僕は、容姿についてそう言われることが多い。
しかし、僕にとってはそんなことはどうでもいいし、それだけで評価されることがしばしばあることも鬱陶しく感じていた。
それを知っているはずの君からそんな言葉が出るとはね。
一体、なにを考えているんだろう。
口には出さなかったけれど、僕が考えていることがわかったのだろう。
君はそのまま話を続けた。
「セイラン様が綺麗なのは、容姿だけじゃないです。」
「ふぅん…?じゃあ、他にどこが綺麗だって言うんだい?」
君は何を言ってくれるのか。
期待をしていると、君は即座に答えた。
「心です。」
「…心?」
なかなか意外な答えだった。
「…君はいつも、僕が予想もしないような突飛な行動や発言をするけど、今回も相変わらずだね。」
「え、そうですか?」
「ああ。…じゃあ、聞かせてもらえるかな?どうして僕の心が綺麗だと思うのか。
世間一般の評価では、僕は偏屈で皮肉ばかり言う変わり者らしいからね。
そんな人物の心が綺麗だなんて言う理由を聞かせてほしい。」
「確かにセイラン様がおっしゃることは、厳しくて皮肉交じりです。」
おやおや、意外に君も言うね。
ヘタな気遣いに飾られた言葉よりも、そういうほうが好きだけれど。
「でも、間違ったことは言ってないんです。どれも核心をついたことばかりで…。
それって、セイラン様が綺麗な心をお持ちだってことだと思うんです。
綺麗な…透明な心で見てるから本当のことが見えるし、透明で綺麗な心だからこそ嘘をつかない。
正直に言うからこそ、皮肉にも取られちゃうと思うんです。」
ふぅん…なるほどね。
そんなことを言われたのは初めてだった。
僕自身も、自分がそういう人物だって考えたことはなかったからね。
「でも本当に心が綺麗なら、たとえ真実だとしてもこんなに意地の悪いことは言わないんじゃないかい?」
「そ、そうかもしれませんけど…でも、だから、それは…。
と、とにかく!セイラン様は透明で綺麗な心をお持ちだと思うんです!」
彼女はそこはどうしても譲る気がないらしい。
僕も頑固なほうだと自覚しているが、彼女はこういうことにおいては僕のそれを上回る。
「…クッ。」
「ど、どうして笑うんですか!ひどいです!」
「いや、君の話を聞くのは本当に面白いと思ってさ。」
どこか納得いかない表情で僕を見つめる君にまたくすりと微笑んで、僕は言葉を続けた。
「そうだな…仮に僕が、君の言う通り綺麗な心の持ち主だとしよう。
でも、僕の隣には僕よりずっと透明で綺麗な心の持ち主がいるんだけどな。」
言いながら、彼女の栗色の髪にさらりと触れる。
わかりやすい君は、驚いた表情でその頬を赤く染める。
「えっ?あの…セイラン様?」
「僕を綺麗な心の持ち主だって思う君の心のほうが、ずっと綺麗ってことさ。」
くすくす笑う僕に、君は顔を赤くしながら照れ笑いを浮かべた。
そんな君を見て、自分の言葉を反芻した僕はふとあることに気が付いた。
「…あぁ、そうか…なるほど、そういうことか…。」
君は僕の独り言に不思議そうに首を傾げる。
「ずっと不思議だったんだ。どうして、僕はこんなにも君に惹かれるんだろうって。
運命、だなんて陳腐な言葉で結論付けたくはなかったからね。
…でも、ようやく今わかったよ。」
不思議そうな表情を崩さない君に、たった今わかったその理由を告げた。
「僕は真実に綺麗なものを否定できるほど、天邪鬼な精神は持ち合わせていない。
言い換えれば、綺麗なものが好きってことさ。
…こんなに綺麗な心を持つ君を、愛しいと思わないわけがないだろう?」
「セイラン様…。」
君は照れくさそうに、けれど嬉しそうに美しく微笑んだ。
「…全く、勘弁してくれないかな。」
「えっ?」
「そんな顔で見つめられたら、君を抱きしめたくなってしまうだろう?
抱きしめたら、キスだってしたくなる。
キスをしたら、もう離したくなくなるに違いない。」
いくらここが僕らの理想郷とはいえ、彼女は新宇宙の女王。
僕は自由だけれど、君は執務が山ほどある中を抜け出して来ている身だ。
そんな君をずっとここで独り占めするわけにはいかない。
そう告げると、君は。
「…それでもいいです。
今、あなたに抱きしめてもらえないことのほうが辛いですから。」
「…全く、君という人は…困った女王陛下だな。」
そうは言ったものの、君がそう言ってくれることを期待していた僕がいたのも事実。
言葉には出さないけれど。
「じゃあ、とりあえず…もっと傍に来てもらえるかな?
キスをするには少し遠いようだから。」
僕の言葉に頬を赤く染めたまま、恥ずかしげに頷いて
さっきよりも僕に近寄った君をそっと抱きしめた。
職務を放り出して逢引、か。
女王としては良くない行動だろうね。
そして、君が女王と知っていてそうさせている僕の行動も。
恋は人に愚かな行動をさせる。
そんな例を、現実にも物語の中でも飽きるほど見てきたけれど、まさか自分もとはね。
でも、相手が君ならそれも悪くないかな。
…なかなか重症だね、僕も。
レイチェルに怒られてしまうかな?
女王陛下にこんなことをさせて。
でも、もう少しだけ見て見ぬフリをしていてもらえるかな。
…しかし、君は僕を綺麗な心の持ち主だなんて信じているけれど。
こうやって君を抱きしめていて、僕がわりと理性ギリギリなことを気づいてるんだろうか?
抱きしめたらキスをしたくなる。
キスをしたら、もっと触れたくなる。
そんな僕の心に気づいていないとしたら…それを気づかせてみるのも、面白いかもしれない。
…こんなことを考えているなんて、やっぱり僕は少なくとも透明な心の持ち主ではなさそうだな。
さて…どうしようかな。
まずは、さっきから気になって仕方ない、君の唇に触れてみるとしようか。
女王陛下への誓いの口付けではなくて、君に恋焦がれる一人の男としての口付けを。
<END>
お題配布元:恋したくなるお題(配布)