ひゃ~、気が付けば3月!
ここ数日、いきなり暖かくなったんで、皮膚感覚がおかしくなりそう~![]()
さて、本日も思い出話。
タイトルは違うけれど、このお話の続きになります。
その後、いったん仕事に戻って、その仕事も終わったので私は再度アオイさんの部屋へ向かった。
もう夜の9時を回っていたので、研究棟もだいぶ静かである。
「こんばんは…。」
アオイさんは、PCで自分の業績リストを作成していた。
彼も、来年でこの研究所との契約が切れるから、次の就職先を見つける準備をしているのだろう。
そして、アオイさんは画面を見つめたまま、
「ど~です。少しは落ち着きましたか?」
「…おかげ様で。どうもすみません。お忙しいところ。」
「いやぁ、ぜんぜん問題ありませんから~。」
アオイさんって、本当にいい人だ…。
しばし沈黙。
「アオイさぁん。」
「何です~?」
「私、もう一度髪の毛、切ろうかなぁ。」
それを聞いて、アオイさんは腕を組んでしばらく考えていたが、
「でぃあさん。」
「はい?」
「僕らね~、ひょっとしたら、5年前に会うてるかもしれないんですよ~。」
えっ?そんなバナナ。何を唐突に?だって、5年前はまだ私は以前の職場にいて…?
「??」
「その頃も、でぃあさんは長髪だったでしょう?」
大学を卒業して1年くらい。えっと、卒業前に少しだけ切りそろえて、
その後はほったらかしだったから、多分今よりも長かったはず。
「ほら、これですよ~。」
アオイさんが見せてくれたのは、自分の業績リストだった。
その中に、‘日本化学会 1991.04’の欄があって、彼も山ちゃんもそれぞれ発表者になっていた。
アオイさんがドクターの1年、山ちゃんがマスターの1年だった時代ですね。
1991年の…化学会。そうか!会場が私の母校だった時だ!
思い出した。私はこの時、ポスターセッションの会場で、
自分の会社のブースのお留守番役をしていたのだわ!
まだ下っ端だったから、発表者にはなれず、でも学会には参加させてもらって…。
「そうでした!私は確かにその場にいました!」
アオイさんは、ウニャーと笑った。
「僕と山ちゃんね~、二人でKOの中、歩いてたんですよ~。
そしたらね~、向こうからごっつう可愛らしい女の子が歩いてきてね~。
ほら、化学会なんて若い女の子少ないじゃないですか~。
目立ってましたよ~。あれ、きっとでぃあさんでしたよ~。」
「しかし…そんなバカな…。」
「紺色のスーツがまた似合ってましてね~。胸に紺色のリボン結んで…
顔は実は良く覚えていないんですけどね~、
風になびいた髪の毛が妙に印象に残ってましてね~。」
そう、確かに私は紺色のスーツを着ていた。
その当時は(今も…)スーツなんて数多く持っていなかったから、
それしか着るものがなくて…。で、胸にはお気に入りの紺地に白の水玉のリボンをしていた。
「僕も見とれてましたけどね~。」
そして、アオイさんは意味ありげに笑って、
「山ちゃんなんか、振り返って見送ってましたよ~。」
何か、すっごい感動だ。5年前は我々は東京と大阪、企業と大学、全く別の場所にいて、
互いの存在すら知らなかった。…彼の言葉が真実か否か、今は確かめるすべはないが。
でも、確かに昔一度、我々は同じ場所にいた。
「そんな綺麗な髪の毛なんだから、切るのよしましょうよ~。」
「…。」
有難う。わかったよ。髪の毛は切らない。当分切らない。ちょっと頭が重いけれど。
アオイさんが居てくれてよかったよ。救われる思いだ。
そこで、アオイさんはふと時計を見て、
「家まで送りましょうか~?」
と、言った。
そいつは有り難い。それじゃあ私は彼の分も在室プレートをひっくり返して
玄関の方に向かっていますから。と、いう事になり、帰り支度をして外へ出た。
今年の冬は、暖冬傾向から一転して寒さに気合の入った日が続いている。
寮からテニスコートの横を通って守衛所の脇に出る道の前で私は佇んでいた。
やがてアオイさんのアコードのヘッドライトがパッシングするのが見えた。
そしてこのアングルは、私とアオイさんが始めてこの研究所で出会った
あの春の夜の場面を思い出させた。
(この話終わり)
1991年って…今から30年以上も前の話なのねぇ…。
でもおそらく、上記の場面では、奴らは発表が終わって帰るところ。
駅方面に向かっていたんだろうな。
そして私はこれから会場に向かうところ。
緊張のあまり、風にバッタバッタなびく髪の毛を抑える余裕もなかったんだろうな~。
で、わき目もふらず一直線に歩いていたんだと思われる。
でもまさか、その数年後にまた会えるなんてねぇ~…。