月がきれいだから(1994年4月下旬) | つれづれなる日記

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 2018年に無二の親友を亡くしました。
これからは奴との思い出を胸に、お迎えに来てくれるのを
待ちつつ、ブログを書いていこうと思うのです。

 夏目漱石が、【I love you】を『月がきれいですね。』とでも

訳しておけ、と言ったとかいうお話がありますが…。

まあ、その真偽は定かではないんですが、有名な話ですよね。

 しかし1994年当時、私はそのエピソードは知らなかったし、

奴はどうだったんだろう?

…という事をふまえて、本日の【奴との思い出】をどうぞ。

 

 満月   満月   満月   満月   満月

 

 ある日のアフター5。

私は、いつものように非常階段の踊り場に居た。

このところあまりタバコを吸う事も無くなっているのだけれど、

今日は久しぶりに吸おうかどうしようか…。

 …などと考えていると、非常ドアが開いて、奴がやってきた。

「…よぉ。」

「あ~ら山ちゃん。タバコタイム?」

「んー。」

 奴がタバコを取り出した。本日の銘柄はCABINである。

私は持っていたライターに火をつけて奴に差し出した。

 

 ちょうど今は日の入りの時刻で、【月は東に日は西に】状態である。

この状態の時、月は満月かそれに近い形をしている。

「春の月ってさぁ。」

「んー?」

「何か、銅メダルみたいじゃない?」

 東の空には満月に近い形の月が、ぽっかりと浮かんでいた。

「…きれいやな。」

「うん。この時期の満月って、好きなのよね。」

「……。」

 奴は黙って煙草をふかしている。視線の先には赤銅色の月。

何だかこの沈黙が居心地悪くて、私はどうでもいいような事を話し出す。

「そ~いやさー。満月の頃って、出産が多いみたいよ?」

「何だそりゃ?」

「さぁ~?潮の満ち引きとの関連じゃないかな~?カニなんかも満月の時産卵するし。」

「そ~なん?」

「…そうらしいよ?」

 

 ちょっとだけ、居心地の悪さが無くなった。

それから奴の煙草が短くなるまでの間、二人は黙って月を眺めていた。

 

 満月   満月   満月   満月   満月

 

 ただ、それだけの話なんですが…。

 奴は、夏目漱石のエピソードを知っていたのかどうなのか?

これも、あの世で奴に会ったら聞いてみたい。

 

 余談ながら、この出来事の約3年後、私は息子を出産しました。