目を閉じて、思い出したのは、僕はまだ清水町の家にいた。

 起きると、12月24日だった、そう、クリスマスイブだ。でも、まだこのときの僕は8歳の僕だった。

 僕らの寝ている部屋は、起きると居間にもなる、8畳の畳敷きの部屋だった。隣の板張りの部屋との境に小さな庭に続く扉があった。前にも思い出して書いたが、この扉を開け、風呂があったのだ。

 この日は、ひどく寒い朝だったのを覚えている。


  「おお、起きたか」

 リョウゾウが新聞を広げながら、やけにニコニコしながら、起き抜けを僕を見て言った。

 「おはようございます・・・」

 少し寝ぼけ眼で僕がそういうと、

 「おお、なんか庭にあるみたいだぞ」

 と、出し抜けに僕にそういった。

 「?」

 フミコを見てみるが、何かほくそ笑んでいるだけで、台所に立って炊事をしていた。

 「?」

 僕は、リョウゾウに言われるまま、扉を引いてみた。

 一面、真っ白だった。

 「お、お父さん、雪だよ!」

 そう、この昭和45年の12月の24日は、雪だったのだ。

 「ん? 雪?」

 どうもリョウゾウは雪が降っていたのを知らなかったらしいが、

 「何もないのか、庭には」

 「?」

 まだわからない。雪のほうが面白かったのが、ふっと視線を下にそらすと、

 「何か置いてあるよ」

 「なんだ、何があった?」

 僕はタタキにおいてあった、少し大きめの箱を持ち上げて、

 「こんなのがおいてあった!」

 と、リョウゾウに見せた。

 「なんだ、そりゃあ?」

 「あけてみたら?」

 フミコが朝食の支度をしながら、僕にそう言った。

 僕はリボンもかかっていない、おもちゃ屋の紙で包まれた箱の、セロテープを慎重に開けて見た。

 現れたのは、

 「サ、サンダーバードだああ」

 そうだ、僕が大好きだったサンダーバードのプラモデルだった。 

 「お父さん、見てみて! サンダーバードだよ! んんと、4号だ!」

 「そうか、サンダー何とかか。よかったなあ」

 どうにも、リョウゾウはプレゼントの中味すら理解していなかったらしい。

 「嬉しいか」

 リョウゾウにそう言われ、

 「う、ううん。嬉しいけど、ぼく、サンダーバード2号が好きだよ、お父さん」

 「・・・2号?」

 「うん、でもね、4号も格好いいよね」

 「・・・そうか」

 大工であるリョウゾウの精一杯のプレゼントを、僕は一蹴するほどの返事を、無邪気に返したのだった。