僕が目覚めたのは、その時だった。
父との釣りの思い出を、夢に見ていた。遥かに遠い、昔の思い出だ。そんなことを、細かく、細部に渡って僕の記憶に残り、こんなときに夢に見ることができるとは思ってもみなかったことだ。
そうだ。
この初めての釣りのときに、僕は釣堀に落ちたのだった。緑色した釣堀の水の中に。
従業員と、父が慌てて僕を助け出し、全身アオモに染まった僕を見ながら、笑っているリョウゾウの姿を思い出せた。
今は、寝たきりだ。何もできない。釣りも、トイレすらも、自分の足ではいけない。
僕の思い出が、僕の全身を動かそうとする。でも、できない。
眠ったほうが、僕は動ける。考えられる。話せる。
喜べる。食べられる。
悲しくなる。
そうだ、悲しい思い出もたくさん、思い出している。
でも、戻りたかった。それは、やり直したい、というのではなく、この先の、わずかな時間のため、僕が僕の幸せのため、そして、リョウゾウの思い描いた幸せを僕が実感できるために、もう一度、戻りたかった。
そのためには、眠ろう。
まだ、死ぬのではなく、眠ってみよう。
そう、思って、僕は目を閉じることにした・・・・