12時半ごろにアパートの一室の前まで着いた。

いまごろお婆ちゃんと一緒にごはんを食べているのだろうか。

普通なら食事中にお邪魔するのは気がひけるかもしれないけれど、そんなわずらわしさもなく気兼ねなく入れる程親密な関係を俺は築いていた。

チャイムを押すとすぐにドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。

「兄ちゃんおかえりー。今日は早いじゃん。」

イツキが明るい声と明るい表情で出迎えてくれた。

「いまみんなでご飯食べててさ、ばあちゃんが肉じゃが作ってくれたんだけど、すごいおいしいよ。あれっ?兄ちゃんはもう食べてきたの?まだなら、俺の分余ってるから少しだったらつまんでいいよ。でも、みーのは取ったらダメだよ。ゆっくり食べてるから残してるかと思っちゃうけど、時間がかかってもいつもペロっと全部食べちゃうからさ、勝手にー」

興奮してまさしくマシンガントークで切れ目なく話し続けているところに、イツキの後ろからゆっくりとおばあちゃんが現れた。

「玄関前のそんなところで話してないで、早く和也さんを中に入れてあげなさい。」

イツキの頭の上に手を置いて、なだめるように優しい声を投げかけた。

「あっ。つい夢中で話しちゃったね。じゃあ早くあがってあがって。」
「失礼しますね。」

おばあちゃんと同じくらい優しい声のトーンで挨拶するとイツキに手を引っ張られ、俺は吸い込まれるように望月宅へお邪魔した。

部屋のリビングに入ると、テーブルの上でゆっくりと食事しているマイの姿があった。

マイは基本的におとなしく無口のため、俺を見ても特に反応は無く、唯一ペコッと軽くお辞儀だけをしてまた食事に戻った。

もうマイのよそよそしい態度には慣れていたので、まだ遠い心の距離感にも気にせず一番手前のテーブルの椅子に座った。

食事の途中だったイツキは流し込むようにすぐに食べ終え、隣の部屋に俺を連れ出しTVゲームをして遊んだ。

ふと横を見ると、マイとおばあちゃんはただ静かに目の前の食事に集中して、まるで1つ1つのお米を噛み締めるように味わっていた。

大事に、大事に、真っ白で汚れやすいヌイグルミを手に取るように。そしてなぜかおばあちゃんは少し儚げなさびしそうな表情をしていた。

その顔は以前にも覚えのある表情で、2年前に俺があいつらと出会ったときにもそんな顔をしていた。

雨が降りしきる正月の夜、ちょうど一昨年の今頃俺はこの家族に出会った。