たったひとりのクレオール

 今、この本を読んでいる。


著●上農正剛
定価●2,700円+税
ISBN4-939015-55-6 C0096
四六判/512ページ/上製

この本はとても興味深い。

インテグレートした聴覚障害児について、問題点や心理面、現状などが克明に書かれている。


(注)インテグレート…(統合教育。聴覚障害児が、地域の学校に通い、聴者と共に学校生活を送ること。)


私は聾者だが、インテグレートし短大まで聴者と共に学んできた。コミュニケーションは一部制限はあったが、あとは楽しく生活してきた。

ただ、小学3年生までは孤独だったのを覚えている。

周囲とどういう関係を保てばいいのか、バランスが分からなかったからである。

担当の先生が、クラスのリーダー存在だったMちゃんに、私と友達になってくれないかと働きかけ、それで友達になってからは、仲間4人で遊ぶようになった。小学4年のことである。

…最初、Mちゃんが1人でぽつんとしていた私に「一緒に遊ぼうよ」って、声かけてきた。

クラスで男子女子に関係なく好かれていたアイドル存在だったMちゃんからそう言われ嬉しかった。

それから、うまくいくようになって仲良くなったのだ。


…「Mちゃんが、アンタと仲良くしたのは、先生に頼まれたからなんだよ!

 私たちのMちゃんを取らないでくれる?」


これはMちゃんと仲良くなっていた頃、ヤキモチ焼いていたIちゃんに言われた言葉だ。

それで私はMちゃんが私に声かけてくれた裏事情を悟った。

すごく傷ついた。

だから、Mちゃんに距離を少し置いていたら、逆に心配されてMちゃんに「どうしたの?」聞かれ、最初は黙っていたけど、ヘンに思った仲間がいろいろ聞いてきて、それでこういうことで…と説明したら、「なんでー、木にすることないよ! Iちゃんはいつもだよー だから心配ないよ!」って言われ、ホッとして、それからまた仲良く遊び始めた。


インテグレート先って、

こんな風にタイミングよく自分を受け入れてくれる環境が揃わないと、なかなかやっていけない。

周りが歩み寄ってきても、自分に受け入れられるキャラがないと、いつしか飽きられてしまう。


私は幸運だったのかな、と思う。

ずっと学校が変わっても、友達には恵まれた。ありがたいと思う。

手話は全然使わなかったけど、口の動きが分かりやすい友達ばかりだった。


こんな私の個性には、

私の両親なくしてはありえなかった。

私の両親は、聾だったからだ。

同じ聾だったから、家庭内ではコミュニケーションはフツウの家庭と変わらなかったし、安心でき、そして楽しい場所だったからだ。

聴の世界←→聾の世界

すごく心理的にもバランスが良かったのだと思う。

それに何よりも、1字ももらさずに、お互いに通じ合える共通言語を持っていたからだと思う。

人間は、一部でもどこかで共通言語で語り合える場所が必要だ。

それを通して、人間はいろいろ吸収し大きく成長できるから。


共通言語とは、手話でもあり、口の動きが読みとれるコミュニケーションでもある。


インテグレートした聴覚障害児はたくさんいる。

しかし、学校生活に適応できないまま孤独を抱えている子もいるのは事実。

競争原理の社会なのだから。

厳しい。

子供は素直だから、時には残酷な言葉も口にする。

それをはねつける強さも必要。

それを言わせない面白いキャラも必要。

そうでないと、やっていけない。


これが私の身をもって学んだこと。


今日はとりあえず これで。