大奇小奇 第1号 株主は電信柱か盤側殿(笑) | Market Cafe Revival (Since 1998)

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四つの単語でできた言葉の中で、最も高くつくものは「今度ばかりは違う」である(This time is different.)。

☆ 本邦における「フィナンシャル・リテラシー」の程度の低さを証明する日本経済新聞「大機小機」に巣食う妖怪を嗤い倒そうという趣旨に賛同されない方には,本欄の閲読を強く推奨致しません(笑)。


☆ 年末年始の報道をピークに「派遣切り」という名前の「雇い止め(やといどめ)」報道が潮が引くように消えていることに強い不安を感じる。雇い止めの問題はセーフティ・ネットを考慮せず美名の元に労働を流動化させた21世紀初頭の立法の欠陥である。政治の役割とは確かに比較多数の支持を得て行うものではあるが,その多数を得る方法が「ポピュリズム」に基づくものであれば,現代民主主義はアリストテレス政治学に言う典型的な「衆愚政治」になってしまう。政治ショーはいつまでも続かないし,続いてもらっては困る。政治とは単に立法府に関することではなく,「おじいさんのバブル」(グリーンスパン・プット)が典型であるように,およそ人間が作る組織や機関の中ではしょっちゅう散見されるものなのである。


☆ 「派遣切り」の問題では企業批判がさまざまな形で噴出している。例えば先日の国会でも,どこかの聡明な女性が労働者派遣法の作ったことを攻撃し,迎え撃つローゼン麻生は,当時の状況で労働の流動化を行わなければ,輸出に依存する我が国の製造業は工場の海外移転に走り,結果として更に多くの雇傭が喪われていたと反論していた。この議論は残念ながらローゼンの方が正しい。正しいのだが,「ペイオフ」の議論と同じで,セーフティー・ネットのないまま雇傭や預金といった生活の根幹に係わる要素を不安定化させてはならないのである。


☆ ところでこの議論の中に時折こんな主張が紛れ込んでいる。大企業はそのバランスシートに多額の剰余金を積んでいる。これを取り崩せば「派遣切り」などしなくて良かった筈だ。この主張。心情的には理解できるが,二つの意味で全く間違っている。


☆ まず一つは法律論になる。企業の剰余金は最終的には株主のものである。これは例の「株主至上主義」とかそういう盗人連中の主張ではない。本来的な株主の権利である。


(参考)野村證券HPより「株主の権利」
・会社の経営権
 株主総会が企業の最高意志決定機関であり、経営決定権限は保有株式数に比例する。
・会社の利益の分配を受ける権利
 会社の所有者は出資者である株主であり、会社の利益は株主に帰属する。利益配当請求権という。
・会社の保有する資産に対する所有権
 会社が解散をした場合には、株主は株式数に応じて、解散処理後残存する会社の純資産を獲得することができる。残余財産分配請求権という。


つまり,株式会社の剰余金は,株主の権利のうち「利益分配(配当請求)権」や「残余財産分配請求権」(但し後者は「会社の清算時」にかかる権利である)に属している。反面,企業側も例えば配当性向を明示することで分配の方針を明確にしている場合もあり,どこかの論者先生が妄想するように株主は「やらずぶったくり」は出来ないのである(もっとも最初に出資(株式購入)しているから,もとより「やらずぶったくり」にはならない筈だが(笑)。


☆ しかし,会社側にはそれ以上の理由がある。つまりバランスシート上の純資産は,現預金やその同等物ではないということだ。昨年暮れから相次いでいる企業倒産を見ていると「資金繰り倒産(黒字倒産)」が増えている。B/S上で純資産(剰余金)を計上できても実際の現預金(資金繰り)が立たなければ「無い袖は振れない」ことになる。きっかけはともあれ,企業が急激に追い込まれたということであろう。


☆ ところで,このような事態はどうして起こったのか?盤側殿の指弾・攻撃によると,全て「会社法の立法(者)に欠陥があったから」だそうである。ほうほうそうでつか。

☆ この法律には確かに「仏作って魂入れず」の部分も少なくない。立法者だって完璧なものを作ったとは思ってないだろう。だがしかし「規範」として作る以上出来合いの物を作って後から良くしていけばいいなどといういい加減な気持ちで良いのかと盤側殿が腹を立てるのも御意見ではあるが,法律が完璧を目指すような国家がどのような物か想像力があれば分かりそうなものだ。そういうリテラシーが盤側殿にないのであるなら,せめてジョージ・オーウェル(「動物農場」であれ「1984」であれ)をご一読されてはどうか?


☆ 株主は株主である前に出資者か投資家である。どこぞの偉そうなファンド殿のように,株主だけが無理難題を喚(わめ)いたところで,経営者はもちろん,従業員(株主という意味の「社員」と区別して)を筆頭とするステークホルダーの支持なくして,どんなこともなしえないだろう。それは別に立法にしなくとも,あるいは「会社法ごっこ」をしなくても常識的に考えればわかる。常識がある投資家なら,日本の風土に敵対的M&Aは容易には成立しないことが分かっているし,たとえその会社をグループに収めた方が,自社にもその会社にもメリットがあると考えても,相手が反対するなら無理強いはしないというのが日本でいちばんM&Aを理解している経営者兼投資家が実際にそうやっている(昨年不成立となった6500番台企業同士のM&A)。


☆ 株主が無理強いして経営者が無理をしたから派遣切りになったというのは,いっけん耳当たりが良いが,とんでもない言いがかりだ。少なくとも盤側殿は一度出資したらそのまま株主であり続けるような長期投資家(バークシャーのような)は株主ではないとでも思っているのだろう。でなければ,全ての投資家は株式会社という「仕組みの中」にいる者の敵だとでも言うのだろうか?


☆ セーフティー・ネットの問題は会社法や労働法の問題だけではない。だいたい法律問題にすり替えることの出来る話ではなく,社会(福祉)施策の問題であり,最初にローゼンの話を持ち出したように「政治の解決すべき問題」である(だから法曹や企業家が放置して良いということではない。これは「市民社会全体の問題」であるのだ!)。

☆ 盤側殿。あんたの会社法の立法者やその抜け穴を悪用する盗人に対する怒りは,私怨に過ぎない。いい加減で「私怨で証券論壇の板を汚すこと」は止めて頂けないだろうか。あんたもどうせやめないだろうから,オレはオレの論壇で徹底的にあんたを叩くから,せいぜいそのつもりでいなさい(笑)。