☆ セルサイドと片仮名書きするとまるでセルロイドのようだが,Sell sideとは売り手側(つまり証券会社サイド)であり,バイサイド(Buy side)は買い手側(つまり専ら機関投資家)を指している。リサーチというのはリサーチアナリスト(個別企業・業界の調査)を言うが,ここでは広義のテクニカル,クォンツ系アナリストやさらに上席のストラテジスト達にも向けて書いている。
☆ 今年のような相場で状況を的確に見通すことは至難の業であることは認める。しかし,レーティングの前提が崩れているにもかかわらず「リサーチが出来ないから」レーティングをそのままにして本当に良いのだろうか?もちろん決算が四半期化されたため,企業側がディスクローズできない期間が増えているのは分かっている。しかし月次統計等を追っていけば,前提が崩れる可能性についてリスクシナリオを想定してワーニングを出すのがリサーチの責務ではないのか。これは酷なことを言っているのだろうか?
☆ 結局,リサーチャーがセルサイドのインハウスにある(証券会社の中の一部門として調査部門があるという意味)から,いくら法的規制事項を注記しても,心理的ファイヤーウォールが無いんじゃないのか(セルサイドの意向に反するレポートは書けないのではないか)?という疑問を持ってしまうのである。
☆ この点で今年興味深かったのは,ある国内系の総合証券会社のストラテジストが具体的な業種を挙げた上で,その業種に属するアナリストレポートを批判したレポートを数回書いていたことだ。そのストラテジストは,アナリスト達が「目標株価」を設定する前提となる「ある指数」が暴落しているにもかかわらず,投資判断を一向に変えないことを批判していたのだが,批判は結果として正しいものだった。
☆ 今年,というよりサブプライム危機を発端とする金融恐慌が進行する時点で,目標株価を半減どころか,三分の一にまで減ずる。あるいは株価四桁銘柄で1,000円以上の幅を以て引き下げを行うというデタラメが横行したのは拭いようもない事実である。まさかアナリストレポートを鵜呑みにして売買するお人好しはいないだろうと思ってはいけない。実際に「アナリストによる投資判断の変更」が「株価の変動要因となった例」は今年だって枚挙に暇がないのである。アナリストとはそういう影響力を市場に対して持っている。それはある意味,ウォーレン・バフェットのいうところの「ミスター・マーケット」なのであるが,それだけに投資判断の前提の変動に対し,どれだけ自覚的なレポート(短信やウォーニングを含む)が書けるのかは,リサーチャーとしての生命線そのものではないのか。
☆ 事ここに至っては「職業としてのリサーチアナリスト」の大半がその「存在意義」を真正面から問われていると非難せずにはいられない。またバイサイドからセルサイドに転身した途端,その辺の自称「株式評論家」レベルの「予想」を日経新聞のマーケット面やテレビ東京,日経CNBCなどで滔々と語る御仁がいるが,「運用者としての貴殿はいったい何だったのだ?」と正面切って批判したい。勘の良い人は気付いているだろうが,RのOさん,あなたのことですよ。