☆『商事法務』に載っていた東大のシンポジウム記事の続き。
「東京大学公共政策大学院シンポジウム」パネルディスカッション
"金融商品取引法と会社法の交錯-上場会社法制"
【出席】以下敬称略
神田秀樹 東京大学教授、
神作裕之 東京大学教授、
大森泰人 金融庁総務企画局企画課長、
中村聡 弁護士(森・濱田松本法律事務所パートナー)、
松尾直彦 東京大学客員教授(司会)
(項目2) 金商法と会社法の調整
これに関する神作見解
(1)商法・会社法の会計およびディスクロージャーに関する規定の意義
①投資家・株主等に対する情報提供 の他に
②剰余金分配可能額の算定いわゆる剰余金配当規制という株式
有限責任制度を補完するための別の大きな目的がある
(2)証取法・金商法の会計およびディスクロージャー規制は,もっぱら
現在および将来の投資家に対し,適切な投資判断を行うための
情報の提供を目的としている。
(3)よって両者(会社法と金商法)は部分的には重なっているが,完全
には一致していない。特に剰余金配当規制は会社法に独自の規律
である。
(4)他方,事務負担の軽減等の観点から,可能な限り商法会計と財務
会計の間で調整を図ることが望ましく,旧商法下の昭和49年改正に
おいて「商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈ニ付テハ公正ナル会計
慣行ヲ斟酌スベシ」と定めた。
(5)ここで「公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」の意味するところは,財務
会計の基準であるところの「企業会計原則」(企業会計審議会作成)
に従って作成すると解される。
(6)次に重要なものは平成10年6月に公表された「商法と企業会計に関
する研究会報告書」をきっかけとする平成11年改正商法だ。
(7)この報告書の結論は配当規制と会計規則を分離するという方向性
を示している。すなわち,市場価格のある有価証券の評価について
時価主義を導入しつつ,配当可能利益の算定においては計算上の
利益は導入しないとしたことだ。
(8)報告書は情報提供機能の面では証取法(金商法)と商法(会社法)
の機能は実質的に同一であり,両者の調整は理論的に可能という
より,むしろ一致する方が望ましい。
(9)従って会社法で特有の目的となる剰余金配当については会社法で
別途考えるという形にして分離した。
(10)このように,会計や開示については法規制の目的に応じて調整
できない部分を分離し,調整可能な部分については相当程度の調整
が図られてきたと理解している。
☆ 神作見解に対する評価・感想
・「株式の本質」論を以前述べたが,その証券がどのような「意味」を持って
いるかによって,ディスクロージャーの意味も違ってくる。ディスクロージャー
が特に重要になってくるのは,投資家としての株主である。株式へ投資する
ことは,将来の期待利益と現在価値とのギャップに資金を投じることと言って
よく(たとえカラ売りでも,現在価値が高過ぎると評価している),企業の会計
情報は投資判断をする最も基本的な資料となる。
・金商法と会社法のディスクロージャーのうち,投資家の視点に立てば前者
が主要なものといえる。反面,コーポレート・ガバナンスの面からは後者(剰
余金分配手段に係わる)もまた重要であろう。この箇所は幾分テクニカルな
ので,なるほどそういう話もあるのだ程度の理解しかない。
・ただ,見逃してはならないことは,金商法と会社法はその前身時代から
別個の法律として誕生するも,相互のリンクを図ってきたということである。
コーポレート・ガバナンスを巡る論者の中に,そのことを意識的に無視して
論旨を展開させる者がいるが,そういうのを牽強付会と言うのだと思う。