カネボウ事件東京高裁判決とM&A実務,少数株主保護についての考察(2) | Market Cafe Revival (Since 1998)

Market Cafe Revival (Since 1998)

四つの単語でできた言葉の中で、最も高くつくものは「今度ばかりは違う」である(This time is different.)。

 日経の記事で示している東京高裁の判決についても触れておく。(要旨:日本経済新聞20081124日「法務インサイド」:法務報道部:前村聡記者)

(原告の主張)

 ・投資ファンドが2006年に産業再生機構から旧カネボウ株(注=「種類株」)の3分の2以上を相対取引で買い取った際,「大量の株式を買い付けるのにTOB(注=公開株式買い付け)をしなかったのは違法(注=記事に記載はないが「強制公開買付規制(大量買い付けの場合はTOBの形で行わなければならない)」と思われる規定の違反)」であり,「TOBに応じて株を売却する機会を逸し」損害賠償を求める。

(被告=投資ファンド=の主張)

 ・金融商品取引法に関係して出された内閣府令では「大量買付でもその株式の所有者が25名未満かつその全員の同意を得ている場合にはTOBをしなくともよい」という上記例外規定があり,問題となった買取りの対象株式は,普通株とは異なる「種類株」で株主も産業再生機構とカネボウ化粧品の二者だった。さらにこの買い付けに際して両者は売却に同意していたから,原告がいうような違反はない。

(第一審:東京地裁20075月)

 ・原告敗訴(この買い付けは被告の主張する「例外規定」に該当する)

(第二審:東京高裁20087月)

 ・原告勝訴

  例外規定の対象となる同意が必要なのは「買付対象外を含めた全ての株所有者」であり,この訴訟の場合,多数の一般株主を含めると例外規定の対象とならない。

  原告の被った損害金額は,投資ファンド側が産業再生機構側から購入した価格(1株201円)を基に損害賠償(注:20116239/株。162円は,前記「買付」後に産業ファンドが行った普通株1株あたりのTOB価格)を命じた。

(高裁判決の影響=パナソニックによる三洋電機買収(子会社化)を例に取る=)

 ・買収前の三洋電機の状況

  三洋電機は米ゴールドマンサックスグループ,大和証券SMBCグループ,三井住友銀行に「種類株(優先株)」を発行し,これらが普通株に転換すると議決権の割合は約7割に達する。

  仮にパナソニックが上記種類株の全株主である三社の同意を得て優先株だけを相対取引で取得した(今回のカネボウ判例と同様のケース)場合,この東京高裁判決の判示に則せば,種類株だけでなく,普通株を含む三洋電機発行の全株式に対してTOBをすべきであったとして「違法」とされる可能性が出てくる。

 事柄の性質上詳細な引用が必要となってしまうが,このように判断すれば,M&A実務的には危機感を覚えるのはやむを得ない。この記事を追いかけるように,25日に三洋電機に対するパナソニックのTOBについて観測記事が讀賣新聞から発表されたが,記事では想定価格を1120円程度としているが,このことも興味深い。

 話は東京高裁判決に戻るが,いずれにしても実務家の立場からは承服し難い内容であることは明らかだ。前回指摘したように,「同じ企業の株であっても種類が異なれば価格やプレミアムが異なり」(日経記事より中川秀宣弁護士コメント)もともと「種類株」を設計する時にこういうことは前提条件として折り込んでいたはずだ。実に厄介なことになったというのが正直なところだろう。

 反面,これを上記の「種類株」を持っていない「その他の株主」の目から見ればどう映るか?法曹の立場からそれを説明したのが,上村教授の説明ということになる。

=続く=