俺は家を出て広場へ向う、道は相変わらず水溜りがあるが、今日は天気も良く、季節も夏に入り始めていたので午前中より大分少なくなっていた。
広場へ着くと子供達は作ってやった竹トンボを飛ばして遊んでいる、広場の入口でその様子を見ているとカズキが駆け寄ってきて言った。
「ねー、もう一個作って」
手には竹トンボを持っていない、何処か遠くまで飛ばしてしまったのだろう、俺はカズキの頭を撫でながら言った。
「ああ、いいよ」
広場の脇に置きっぱなしにしていた切り倒した竹のところまで一緒に歩いて行く、他の子供達も駆け寄ってきた。
俺は竹を鉈で切って竹トンボを作ってやる、カズキはそれを受け取ると他の子供達と一緒に広場の真ん中へ走って行く。
どうやら竹トンボの飛距離を競っているらしい、俺は自分の分の竹トンボを作ると子供達の方へ向った。
「ずーるーいー!」
そう言っているのはカズキだ、どうやら俺が飛ばす竹トンボが良く飛ぶのは俺がそういう風に作ったからだと思っているらしい。
「じゃぁ交換する?」
「うん!」
そう言って竹トンボを交換してやる、カズキは勢い良く竹トンボを飛ばす、だが結果はカズキの予想とは裏腹にあまり飛ばずに落ちてしまう。
「それ!」
そう言って俺も竹トンボを飛ばす、カズキの飛ばした竹トンボより倍は進んだ所に落ちる、その様子を見てカズキはまた悔しがる。
俺は空を見ながら言った。
「じゃぁそろそろ帰るよ」
「えー、早いー」
子供達は声を揃えて言った。
「また泥だらけになってるだろ、日が出てるうちに洗って乾かさないと」
皆の格好を見ると俺も含めて泥だらけだ。
「めんどくさいー」
口を膨らませてそう言ってるのはカズキだ。
「洗わないと家に入れないぞ、カズキだけ外で寝るか?」
「やだー」
カズキはそう言って走り回る。
「じゃぁ洗いに行こ」
「はーい」
子供達と一緒に滝に向かい、午前中と同じ様に服を洗わせて服を絞ってやる、まだ日が出ているから直ぐに乾くだろう。
フタバの服も絞ってやる、午前中に見た通り体には手術痕がある、その痕を見ながら俺は思った。
小さい子供、それに女の子ならなおさらこんな痕が残るように手術をするだろうか、やはりこの村の子供達の将来の事は考えられていないのだろうか。
子供達はこの村でしか生きていけない、村長さんはそう言っていた、ならば手術をしたのは村上さんだろうか。
この村の大人達は大蛇様の事を知っている、そしてそれを隠しているが村上さんも同じなのだろうか。
「かーえーろー」
シオンが言った、俺はフタバに絞った服を渡し、自分の服を急いで洗うと子供達と一緒に家の方へ戻って行った。
フタバと一緒に家へ戻ったがまだ夕食の時間には早い、それに外に居た方が乾くのが早いだろう。
「服洗ったんで外で乾かしてきます」
家の中に居た村長さんに声を掛けて外に出る、そういえばと思って俺は広場の方へ向った、フタバも着いてくる。
ノコギリ、鉈、キリを広場に置いたままだった、俺は広場に着くとそれらを抱えて信夫さんの家に向った。
家の中に信夫さんは居た、俺はお礼を言って鉈とキリを返す、そして村長さんの家に戻るとノコギリも小屋にしまった。
服を触ってみるがまだ乾いていない、脱いだ方が乾くのが早いだろうか、そう思って俺は服を脱ぐと小屋の中にあった棒に袖を通して掲げた。
しばらくそうしていると畑の方から誰かが歩いてきた、悟さんだ、後ろには敏子さんも居る、農作業を終えて戻ってきたのだろう。
「おー面白い事やってらな」
悟さんは笑いながら言う。
「子供達と遊んでいたら泥だらけになっちゃったので」
「いやー、元気が一番、風邪ひかないようにの」
そう言って自分の家の方へ戻って行く、確かにそろそろ寒くなってきたし大分服も乾いただろう、そう思って服を下ろす。
「だいちゃん」
敏子さんだ、俺の方を見ながら驚いたような顔をしている。
「どうしました?」
「その、背中」
「ああ、これは小さい頃からあったみたいで、火傷とか怪我じゃないんですけど」
背中に在る為、普段、自分では全く気にならないのだが俺の背中には赤いアザがあるのだ。
「そうなの」
そう言って敏子さんは自分の家の方へ歩いて行った。
俺は服が乾いている事を確認して着る、フタバの服も触ってみたがもう大分乾いているようだ。
家の中に入り夕食の準備を始める、フタバは何も言わずに手伝ってくれる、大体夕食の準備が出来てお湯を沸かしているところでフタバが言った。
「嫌いに、なった?」
「え?」
予想してなかった言葉に思わず聞き返した、フタバはもう一度言う。
「私、大蛇様に呪われてるから、嫌いになった?」
手術痕の事を言っているのだろう、俺はフタバの頭を撫でながら言う。
「嫌いになんかならないよ、大蛇様の呪いなんかじゃないから大丈夫」
それを聞くとフタバは少し微笑んで頷いた。
夕食を食べ終わり後片付けをする、食器を片付け終え、村長さんと将棋をする為、将棋盤を奥から持ってきたところで何かが落ちた様な音がした。
音の方がした方を見るとフタバが倒れている、俺は慌てて将棋盤を置き倒れているフタバの元へ向う。
「フタバ? フタバ!」
俺は倒れているフタバを抱えて声を掛ける、息はしているが反応が無い。
「病院へ連れて行きます!」
村長さんへそう言うとフタバを抱え上げて家の外に出た。
もう辺りは大分暗くなっている、フタバを抱いたまま水田の間を抜け、森の中を抜け、病院へ着いた。
明かりはまだ付いている、よかった、そう思って病院の中へ入った。
病院の中へ入ると直ぐに鈴木さんが居た。
「鈴木さん! 先生は? フタバちゃんが倒れて」
それを聞くと鈴木さんはインターホンで何処かに連絡をした、それから直ぐに村上さんが奥の方から駆け足でやってきた。
「倒れたのはいつ頃?」
「夕食の直後、20分前くらいです」
「わかった、じゃぁこっちに」
俺は言われるまま村上さんに付いて行く、病室の中に入り、ベッドの上にフタバを寝かせた。
村上さんはフタバの腕に何かを注射して言った。
「これで、大丈夫だろう、今日はここに寝かせて置くといい」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げながらお礼を言った、眠ったままのフタバの頭を撫でてやる、倒れた時だろう、髪を上げてやるとおでこに擦りむいた様な傷があった、村上さん、鈴木さんに続いて病室を出る。
病院の入口近くの待合室の所に着くと鈴木さんが水を持って来てくれた、俺はそれを受け取り一気に飲み干す。
「フタバちゃん、病気なんですか?」
俺は村上さんに聞く。
「ん? ああ、ちょっとな」
「腎臓、ですか?」
「わかってたのか?」
「いえ、フタバちゃん、あまりしょっぱいものは食べれないと言ってましたし、同じ事を昔病院で聞いて」
村上さんはなるほどといった様子で軽く溜め息をついて言った。
「あの子は腎臓が片方無くてな、普通に生活する分には問題ないんだが時々こういうことがあるんだ」
「そうですか」
「さぁ、村の人も心配するだろうから君も早く帰った方がいい」
そう言いながら村上さんは懐中電灯を渡してくれた。
「そうですね、ありがとうございます」
俺は懐中電灯を受け取り病院から出る、辺りはすっかり暗くなっていた、森を抜け、水田の間の道を通って家に戻る。
家の中に入ると村の大人の人が揃っていた。
「大丈夫だった?」
明子さんが心配そうに聞いてきた。
「ええ、先生は大丈夫と言ってました」
それを聞いて皆安心したように溜め息をついた。
「じゃぁ皆家さ帰って、子供達が心配するはんで」
村長さんがそう言うと皆それぞれ家に戻って行った、俺は皆を見送ると床に就き、いつもの様に村の事を考える。
皆フタバの事を心配しているようだ、俺がこの村に来る前から子供達の面倒を見ていたのだ、当然といえば当然だ。
だが何故普段はあまり関わらない様にしているのだろう、どれくらい昔から面倒を見ているのかは分からないが、1年、いや1ヶ月でも一緒に生活していれば愛着もあるだろう、今の俺がそうであるように。
やはり俺には知らされていない子供達を連れて行くという大蛇様の事が関係しているのだろうか。
大人達は子供達がいつか大蛇様に連れて行かれる事を知っている、だからこそあまり深く関わらない様にしているのだ。
そう考えると納得出来る、子供達と深く関わってしまうと大蛇様に連れて行かれてしまう時に辛いのだ。
きっと面倒を見る子供達を定期的に交代しているのもその為だろう、一人の子供と深く関わらないようにしているのだ。
だがそこまでするなら逆に、大蛇様に連れて行かれないようにすべきじゃないのだろうか、村の為に必要な生贄だとでも言うのだろうか。
どんな理由があろうと子供達を生贄にはしない、そう思って俺は眠った。
翌朝、朝食を済ませると俺は直ぐに病院へ向った。
まだ水田や畑には誰も居ない、日も昇りきっておらず、薄く靄の掛かった道を病院に向って進んで行く。
病院の入口は開いていた、特に鍵をする必要も無いのだろう、待合室の様な所を見るが誰も居ない。
俺は昨日フタバを運んだ病室へ向った。
フタバは昨日運び込んだのと同じベッドで寝ていた、ベッドの隣にパイプ椅子を広げて座る。
しばらくそうしてフタバを見ていると病室の入口の方から足音がした、鈴木さんだ、朝食を持ってきてくれたらしい。
鈴木さんは俺を見て少し驚いたようだが直ぐにベッドの脇まで歩いて来て言った。
「おはようございます、早いですね」
「ええ、心配だったので」
「フタバちゃん、まだ寝てますね、じゃぁ起きたら食べさせてやってください」
「わかりました」
そう言って朝食が乗ったお盆を受け取る、お盆を棚の上に置いてまたフタバの様子を見ているとフタバが目を覚ました。
フタバは驚いた様に辺りを見回したが俺の顔を見て安心したように笑った。
「おはよう」
フタバの頭を撫でながら言う。
「朝ごはん食べる?」
そう言うとフタバは小さく頷いた、フタバを起き上がらせ膝の上辺りにお盆を置いてやる、フタバはゆっくりとご飯を食べ始めた。
「ちょっと貰っていい?」
そう言って味噌汁を口に含む、味薄いね、そう言おうとしたが俺は言葉を詰まらせた、黙ってお盆にお椀を戻す。
食事を終えるとフタバは言った。
「ねぇ、村に戻りたい」
「そっか、じゃぁ行こう」
そう言ってフタバに草履を履かせてやる、草履では病院の廊下は滑りやすい、俺はフタバの手を握って入口に向った。
入口近くの待合室に村上さんが居た、鈴木さんは病院の入口で待っている、俺は村上さんに声を掛けた。
「あの、もう大丈夫ですか?」
「ああ、皆心配するだろうから早く戻りなさい」
村上さんは振り向かずに反対側を向いたまま応えた、ちゃんとお礼を言った方がいいだろう、そう思って俺はフタバの手を引いて村上さんの方へ向おうとしたが鈴木さんに止められた。
「先生は、あまり子供達に会いたくないので」
鈴木さんは俺だけに聞こえる様に小声で言った。
「子供、嫌いなんですか?」
俺も小声で聞く。
「いいえ、そういう訳では無いのですが」
村の人達と同じで子供達にあまり深く関わりたくないのだろうか、そう思って俺は黙って頭を下げると病院を後にした。
森を抜けて水田の間を通り村に戻る、日はすっかり昇っていて靄も晴れていた、もう子供達は広場に居るだろう、フタバと一緒に広場へ向う。
広場では既に子供達が遊んでいた。
「あまり無理しないようにね」
「うん」
フタバは元気良く返事をして広場の中へ入っていった。
俺は農作業へ向おうと思い家の方へ戻る、ちょうど村の中央を通っている道から外れて村長さんの家の方へ入ろうとしたところで後ろの方から声を掛けられた、俺は振り向いて声がした方向を見る、敏子さんだ。
「あの、ちょっと話聞かせてもらいたいんだけれども」
「え? ああ、いいですよ」
何の事だろうとは思ったが別に断る理由も無かった、俺はそう言って敏子さんに付いて行った。
敏子さんの家に入るが誰も居なかった、悟さんは多分農作業をしているのだろう、敏子さんはお茶を煎れてくれた。
「話ってのはこの村さ来る前、何やってだが教えて欲しくて」
俺は少し迷った、何故こんな事を聞かれるのだろう、だが別に隠す必要がある事は無い、それに俺が話せば敏子さんも村の事、そして大蛇様の事について何か話してくれるかもしれない。
そう思って俺は話し始めた、赤ちゃんの頃から児童養護施設で育った事、小学校から高校卒業するまでの事、就職して上京してからの事、そしてこの村に来た理由を、由紀の事を。
敏子さんは黙って聞いていた、俺が話し終わってもしばらくそのまま黙っていた、やがて敏子さんは言った。
「あんたは施設で育ったて話だけれども、幸せだったかい」
「んー、そうですね、施設に入る前の事はまったく覚えてないから比べる事も出来ないですけど、幸せでしたよ」
そう言うと敏子さんは少し嬉しそうにして頷いた、俺は続けて言う。
「何より今この村での生活は楽しいですからね、幸せですよ」
そこまで話したところで入口の方から声がした。
「おーい、ただいま」
入口の方を見る、悟さんだ。
「あ、お邪魔してます」
「おー、珍しいなどした?」
「いえ、ちょっと敏子さんと話を」
俺は立ち上がって言った、敏子さんも立ち上がる。
「あー、ごめんなさい、だいちゃんと話してでまだお昼準備出来てない」
「んだな、だいちゃんも食べて行くがい?」
「あ、いいえ、私も作らなきゃいけないので、子供達呼んできます」
「おー、お疲れさん」
「じゃぁ失礼します」
俺はそう言って敏子さんの家を出た、結局村の事は何も聞けなかった、しかし何故敏子さんはあんな事を聞いたのだろう。
考えながら広場へ向う、広場へ着くと子供達は竹トンボを飛ばして遊んでいた、大分飛ばし方が上手くなっている。
「おーい! お昼だよ」
そう言うと子供達は駆け寄ってきた、皆揃って家の方へ戻る。
朝起きて、農作業をして、子供達と遊んで、一日が終わる、そうして繰り返す毎日が心底幸せだと思う。
しかし大蛇様が居る限りいつか子供達は連れて行かれてしまう、ダイゴがそうだったように、会った事は無いが俺がこの村に来る前は居たというショウゾウ君という子も同じだったのだろう。
いくら毎日幸せに過ごせたとしても、いつか大蛇様来る、そう思っている限り俺にとってこの村は大蛇様に呪われたままだ。
広場へ着くと子供達は作ってやった竹トンボを飛ばして遊んでいる、広場の入口でその様子を見ているとカズキが駆け寄ってきて言った。
「ねー、もう一個作って」
手には竹トンボを持っていない、何処か遠くまで飛ばしてしまったのだろう、俺はカズキの頭を撫でながら言った。
「ああ、いいよ」
広場の脇に置きっぱなしにしていた切り倒した竹のところまで一緒に歩いて行く、他の子供達も駆け寄ってきた。
俺は竹を鉈で切って竹トンボを作ってやる、カズキはそれを受け取ると他の子供達と一緒に広場の真ん中へ走って行く。
どうやら竹トンボの飛距離を競っているらしい、俺は自分の分の竹トンボを作ると子供達の方へ向った。
「ずーるーいー!」
そう言っているのはカズキだ、どうやら俺が飛ばす竹トンボが良く飛ぶのは俺がそういう風に作ったからだと思っているらしい。
「じゃぁ交換する?」
「うん!」
そう言って竹トンボを交換してやる、カズキは勢い良く竹トンボを飛ばす、だが結果はカズキの予想とは裏腹にあまり飛ばずに落ちてしまう。
「それ!」
そう言って俺も竹トンボを飛ばす、カズキの飛ばした竹トンボより倍は進んだ所に落ちる、その様子を見てカズキはまた悔しがる。
俺は空を見ながら言った。
「じゃぁそろそろ帰るよ」
「えー、早いー」
子供達は声を揃えて言った。
「また泥だらけになってるだろ、日が出てるうちに洗って乾かさないと」
皆の格好を見ると俺も含めて泥だらけだ。
「めんどくさいー」
口を膨らませてそう言ってるのはカズキだ。
「洗わないと家に入れないぞ、カズキだけ外で寝るか?」
「やだー」
カズキはそう言って走り回る。
「じゃぁ洗いに行こ」
「はーい」
子供達と一緒に滝に向かい、午前中と同じ様に服を洗わせて服を絞ってやる、まだ日が出ているから直ぐに乾くだろう。
フタバの服も絞ってやる、午前中に見た通り体には手術痕がある、その痕を見ながら俺は思った。
小さい子供、それに女の子ならなおさらこんな痕が残るように手術をするだろうか、やはりこの村の子供達の将来の事は考えられていないのだろうか。
子供達はこの村でしか生きていけない、村長さんはそう言っていた、ならば手術をしたのは村上さんだろうか。
この村の大人達は大蛇様の事を知っている、そしてそれを隠しているが村上さんも同じなのだろうか。
「かーえーろー」
シオンが言った、俺はフタバに絞った服を渡し、自分の服を急いで洗うと子供達と一緒に家の方へ戻って行った。
フタバと一緒に家へ戻ったがまだ夕食の時間には早い、それに外に居た方が乾くのが早いだろう。
「服洗ったんで外で乾かしてきます」
家の中に居た村長さんに声を掛けて外に出る、そういえばと思って俺は広場の方へ向った、フタバも着いてくる。
ノコギリ、鉈、キリを広場に置いたままだった、俺は広場に着くとそれらを抱えて信夫さんの家に向った。
家の中に信夫さんは居た、俺はお礼を言って鉈とキリを返す、そして村長さんの家に戻るとノコギリも小屋にしまった。
服を触ってみるがまだ乾いていない、脱いだ方が乾くのが早いだろうか、そう思って俺は服を脱ぐと小屋の中にあった棒に袖を通して掲げた。
しばらくそうしていると畑の方から誰かが歩いてきた、悟さんだ、後ろには敏子さんも居る、農作業を終えて戻ってきたのだろう。
「おー面白い事やってらな」
悟さんは笑いながら言う。
「子供達と遊んでいたら泥だらけになっちゃったので」
「いやー、元気が一番、風邪ひかないようにの」
そう言って自分の家の方へ戻って行く、確かにそろそろ寒くなってきたし大分服も乾いただろう、そう思って服を下ろす。
「だいちゃん」
敏子さんだ、俺の方を見ながら驚いたような顔をしている。
「どうしました?」
「その、背中」
「ああ、これは小さい頃からあったみたいで、火傷とか怪我じゃないんですけど」
背中に在る為、普段、自分では全く気にならないのだが俺の背中には赤いアザがあるのだ。
「そうなの」
そう言って敏子さんは自分の家の方へ歩いて行った。
俺は服が乾いている事を確認して着る、フタバの服も触ってみたがもう大分乾いているようだ。
家の中に入り夕食の準備を始める、フタバは何も言わずに手伝ってくれる、大体夕食の準備が出来てお湯を沸かしているところでフタバが言った。
「嫌いに、なった?」
「え?」
予想してなかった言葉に思わず聞き返した、フタバはもう一度言う。
「私、大蛇様に呪われてるから、嫌いになった?」
手術痕の事を言っているのだろう、俺はフタバの頭を撫でながら言う。
「嫌いになんかならないよ、大蛇様の呪いなんかじゃないから大丈夫」
それを聞くとフタバは少し微笑んで頷いた。
夕食を食べ終わり後片付けをする、食器を片付け終え、村長さんと将棋をする為、将棋盤を奥から持ってきたところで何かが落ちた様な音がした。
音の方がした方を見るとフタバが倒れている、俺は慌てて将棋盤を置き倒れているフタバの元へ向う。
「フタバ? フタバ!」
俺は倒れているフタバを抱えて声を掛ける、息はしているが反応が無い。
「病院へ連れて行きます!」
村長さんへそう言うとフタバを抱え上げて家の外に出た。
もう辺りは大分暗くなっている、フタバを抱いたまま水田の間を抜け、森の中を抜け、病院へ着いた。
明かりはまだ付いている、よかった、そう思って病院の中へ入った。
病院の中へ入ると直ぐに鈴木さんが居た。
「鈴木さん! 先生は? フタバちゃんが倒れて」
それを聞くと鈴木さんはインターホンで何処かに連絡をした、それから直ぐに村上さんが奥の方から駆け足でやってきた。
「倒れたのはいつ頃?」
「夕食の直後、20分前くらいです」
「わかった、じゃぁこっちに」
俺は言われるまま村上さんに付いて行く、病室の中に入り、ベッドの上にフタバを寝かせた。
村上さんはフタバの腕に何かを注射して言った。
「これで、大丈夫だろう、今日はここに寝かせて置くといい」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げながらお礼を言った、眠ったままのフタバの頭を撫でてやる、倒れた時だろう、髪を上げてやるとおでこに擦りむいた様な傷があった、村上さん、鈴木さんに続いて病室を出る。
病院の入口近くの待合室の所に着くと鈴木さんが水を持って来てくれた、俺はそれを受け取り一気に飲み干す。
「フタバちゃん、病気なんですか?」
俺は村上さんに聞く。
「ん? ああ、ちょっとな」
「腎臓、ですか?」
「わかってたのか?」
「いえ、フタバちゃん、あまりしょっぱいものは食べれないと言ってましたし、同じ事を昔病院で聞いて」
村上さんはなるほどといった様子で軽く溜め息をついて言った。
「あの子は腎臓が片方無くてな、普通に生活する分には問題ないんだが時々こういうことがあるんだ」
「そうですか」
「さぁ、村の人も心配するだろうから君も早く帰った方がいい」
そう言いながら村上さんは懐中電灯を渡してくれた。
「そうですね、ありがとうございます」
俺は懐中電灯を受け取り病院から出る、辺りはすっかり暗くなっていた、森を抜け、水田の間の道を通って家に戻る。
家の中に入ると村の大人の人が揃っていた。
「大丈夫だった?」
明子さんが心配そうに聞いてきた。
「ええ、先生は大丈夫と言ってました」
それを聞いて皆安心したように溜め息をついた。
「じゃぁ皆家さ帰って、子供達が心配するはんで」
村長さんがそう言うと皆それぞれ家に戻って行った、俺は皆を見送ると床に就き、いつもの様に村の事を考える。
皆フタバの事を心配しているようだ、俺がこの村に来る前から子供達の面倒を見ていたのだ、当然といえば当然だ。
だが何故普段はあまり関わらない様にしているのだろう、どれくらい昔から面倒を見ているのかは分からないが、1年、いや1ヶ月でも一緒に生活していれば愛着もあるだろう、今の俺がそうであるように。
やはり俺には知らされていない子供達を連れて行くという大蛇様の事が関係しているのだろうか。
大人達は子供達がいつか大蛇様に連れて行かれる事を知っている、だからこそあまり深く関わらない様にしているのだ。
そう考えると納得出来る、子供達と深く関わってしまうと大蛇様に連れて行かれてしまう時に辛いのだ。
きっと面倒を見る子供達を定期的に交代しているのもその為だろう、一人の子供と深く関わらないようにしているのだ。
だがそこまでするなら逆に、大蛇様に連れて行かれないようにすべきじゃないのだろうか、村の為に必要な生贄だとでも言うのだろうか。
どんな理由があろうと子供達を生贄にはしない、そう思って俺は眠った。
翌朝、朝食を済ませると俺は直ぐに病院へ向った。
まだ水田や畑には誰も居ない、日も昇りきっておらず、薄く靄の掛かった道を病院に向って進んで行く。
病院の入口は開いていた、特に鍵をする必要も無いのだろう、待合室の様な所を見るが誰も居ない。
俺は昨日フタバを運んだ病室へ向った。
フタバは昨日運び込んだのと同じベッドで寝ていた、ベッドの隣にパイプ椅子を広げて座る。
しばらくそうしてフタバを見ていると病室の入口の方から足音がした、鈴木さんだ、朝食を持ってきてくれたらしい。
鈴木さんは俺を見て少し驚いたようだが直ぐにベッドの脇まで歩いて来て言った。
「おはようございます、早いですね」
「ええ、心配だったので」
「フタバちゃん、まだ寝てますね、じゃぁ起きたら食べさせてやってください」
「わかりました」
そう言って朝食が乗ったお盆を受け取る、お盆を棚の上に置いてまたフタバの様子を見ているとフタバが目を覚ました。
フタバは驚いた様に辺りを見回したが俺の顔を見て安心したように笑った。
「おはよう」
フタバの頭を撫でながら言う。
「朝ごはん食べる?」
そう言うとフタバは小さく頷いた、フタバを起き上がらせ膝の上辺りにお盆を置いてやる、フタバはゆっくりとご飯を食べ始めた。
「ちょっと貰っていい?」
そう言って味噌汁を口に含む、味薄いね、そう言おうとしたが俺は言葉を詰まらせた、黙ってお盆にお椀を戻す。
食事を終えるとフタバは言った。
「ねぇ、村に戻りたい」
「そっか、じゃぁ行こう」
そう言ってフタバに草履を履かせてやる、草履では病院の廊下は滑りやすい、俺はフタバの手を握って入口に向った。
入口近くの待合室に村上さんが居た、鈴木さんは病院の入口で待っている、俺は村上さんに声を掛けた。
「あの、もう大丈夫ですか?」
「ああ、皆心配するだろうから早く戻りなさい」
村上さんは振り向かずに反対側を向いたまま応えた、ちゃんとお礼を言った方がいいだろう、そう思って俺はフタバの手を引いて村上さんの方へ向おうとしたが鈴木さんに止められた。
「先生は、あまり子供達に会いたくないので」
鈴木さんは俺だけに聞こえる様に小声で言った。
「子供、嫌いなんですか?」
俺も小声で聞く。
「いいえ、そういう訳では無いのですが」
村の人達と同じで子供達にあまり深く関わりたくないのだろうか、そう思って俺は黙って頭を下げると病院を後にした。
森を抜けて水田の間を通り村に戻る、日はすっかり昇っていて靄も晴れていた、もう子供達は広場に居るだろう、フタバと一緒に広場へ向う。
広場では既に子供達が遊んでいた。
「あまり無理しないようにね」
「うん」
フタバは元気良く返事をして広場の中へ入っていった。
俺は農作業へ向おうと思い家の方へ戻る、ちょうど村の中央を通っている道から外れて村長さんの家の方へ入ろうとしたところで後ろの方から声を掛けられた、俺は振り向いて声がした方向を見る、敏子さんだ。
「あの、ちょっと話聞かせてもらいたいんだけれども」
「え? ああ、いいですよ」
何の事だろうとは思ったが別に断る理由も無かった、俺はそう言って敏子さんに付いて行った。
敏子さんの家に入るが誰も居なかった、悟さんは多分農作業をしているのだろう、敏子さんはお茶を煎れてくれた。
「話ってのはこの村さ来る前、何やってだが教えて欲しくて」
俺は少し迷った、何故こんな事を聞かれるのだろう、だが別に隠す必要がある事は無い、それに俺が話せば敏子さんも村の事、そして大蛇様の事について何か話してくれるかもしれない。
そう思って俺は話し始めた、赤ちゃんの頃から児童養護施設で育った事、小学校から高校卒業するまでの事、就職して上京してからの事、そしてこの村に来た理由を、由紀の事を。
敏子さんは黙って聞いていた、俺が話し終わってもしばらくそのまま黙っていた、やがて敏子さんは言った。
「あんたは施設で育ったて話だけれども、幸せだったかい」
「んー、そうですね、施設に入る前の事はまったく覚えてないから比べる事も出来ないですけど、幸せでしたよ」
そう言うと敏子さんは少し嬉しそうにして頷いた、俺は続けて言う。
「何より今この村での生活は楽しいですからね、幸せですよ」
そこまで話したところで入口の方から声がした。
「おーい、ただいま」
入口の方を見る、悟さんだ。
「あ、お邪魔してます」
「おー、珍しいなどした?」
「いえ、ちょっと敏子さんと話を」
俺は立ち上がって言った、敏子さんも立ち上がる。
「あー、ごめんなさい、だいちゃんと話してでまだお昼準備出来てない」
「んだな、だいちゃんも食べて行くがい?」
「あ、いいえ、私も作らなきゃいけないので、子供達呼んできます」
「おー、お疲れさん」
「じゃぁ失礼します」
俺はそう言って敏子さんの家を出た、結局村の事は何も聞けなかった、しかし何故敏子さんはあんな事を聞いたのだろう。
考えながら広場へ向う、広場へ着くと子供達は竹トンボを飛ばして遊んでいた、大分飛ばし方が上手くなっている。
「おーい! お昼だよ」
そう言うと子供達は駆け寄ってきた、皆揃って家の方へ戻る。
朝起きて、農作業をして、子供達と遊んで、一日が終わる、そうして繰り返す毎日が心底幸せだと思う。
しかし大蛇様が居る限りいつか子供達は連れて行かれてしまう、ダイゴがそうだったように、会った事は無いが俺がこの村に来る前は居たというショウゾウ君という子も同じだったのだろう。
いくら毎日幸せに過ごせたとしても、いつか大蛇様来る、そう思っている限り俺にとってこの村は大蛇様に呪われたままだ。